第70話

 シュシュとアオ君、2人がカサンドラを迎えにくる前。カサンドラは公爵家のエントランスを掃除するメイドに、両親に話があると話しかけた。メイドは一礼して「しばらくお待ちください」と言って呼びに向かった。


 しばらく、エントランスで待っていると、話しかけたメイドが戻り。旦那様と奥様は応接間で、話を聞くとカサンドラに伝えた。


「応接間ね、ありがとう」

 

 カサンドラは応接間に向かい扉を叩くと、中から「入れ」と返事が返ってきた。扉を開けると応接間のソファーに、舞踏会でお会いしたときと同じ表情を浮かべた両親が座っていた。


(……相変わらずね。でも、私が舞踏会にいた事は、ルリアお祖母様の魔法で忘れているはず)


 カサンドラは小さくため息をつくと、両親の前に座った。両親は話があると伝えたカサンドラが話すより前に、お父様が話しだした。


「カサンドラ、お前……舞踏会にも来ず何をしていた! シャリィがいま大変な目に遭っているのだぞ」


「シャリィが大変な目にですか? それは当たり前のことですわ。妹は皇太子殿下の婚約者になったのです、王妃教育は大変なのは当たり前のことですわ。それに彼女の周りには私よりも、優秀な教育係とメイドが数名ついていますわ」


 そうカサンドラが伝えると、お父様は苛立ち、前のテーブルを拳でガンと叩いた。その振動でガシャンとガラス製の灰皿が、音を立てて揺れ動く。


(相変わらず、シャリィの事になると沸点が低いですわね)


「その事もあるが、姉として妹を支えろと言いっているんだ! 今、あの子は呪いにかかった……手を貸してやってくれ」


 ――呪いにかかった? それはあの子の自業自得。


「まぁ、呪いですか? 私、辺境地の近くに住んでいて、お2人の婚約が決まったと知り、お祝いを言いにきただけですわ」


(まあ、嘘ですけど)


「ああ、そうだったのか……辺境地は情報が遅いんだな。カサンドラ、至急、王城へ向かい。悲しむシャリィを慰めてやってくれ」


「慰める? ……無理じゃないでしょうか? シャリィも嫌いな私と会いたくないと思います。それに元婚約者の私がいるだけで、良からぬ噂が立ちます」


 カサンドラがそう伝えると。


「……カサンドラ! あの子が辛いと泣いているのです。シャリィが可哀想でしょう! 姉のあなたが側で支えてあげなさい!」


 今まで、黙っていたお母様がハンカチを片手に、金切り声をあげた。


(この人は……いつも、いつも、シャリィ、シャリィばかりで、私を見てくれた事はない癖に)


「カサンドラ!」

「あなた、姉でしょう!」


(……シャリィは自業自得で、ふくよかになっただけ。人に頼らず、自分でどうにかするのが当たり前。これ以上、妹と両親に振り回されたくありません)



 これを上手く使い。

 勘当されましょうか。



「シャリィの事がそんなに気になるのでしたら、カヌルお父様とマーラお母様が王都に行けばよろしくて? ……その方が妹も喜びますわ。"そんなこと"より、私の話をしてもいいですか?」


 カサンドラより、シャリィが大切な2人。

 このカサンドラの発言が、お父様の逆鱗に触れる。


「カサンドラ……貴様、シャリィを"そんなこと"呼ばわりするとは許さんぞ! もうお前には頼まない! 屋敷から出ていけ! 2度と顔を見せるなぁ!」


「ほんと。あなたは酷い子だわ。あんたなんか産むんじゃなかった!」


(上手く事が進みましたが。お母様のその言葉は少しキツイですわね……でもこれで、この人達とは縁が切れます)


「2度とですか、わかりました。本日から私と公爵家とは他人です。公爵家から私の籍を抜いてください、今までありがとうございました」


「カサンドラ! 毎月の生活費は返さなくていい、貸してやった屋敷からは出ていけ」


「わかりました、戻りしだい出ていきますわ。それでは失礼いたします」


 カサンドラは生まれたときから、あの人達の娘ではなかった。


 応接間を後にした、カサンドラは振り向く事なく、屋敷を後にした。その様子を馬車から見ていた、アオ君とシュシュが馬車か飛び出てきて、カサンドラへと飛びついた。

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