第69話
カサンドラは王都に行く前に、ルリアお祖母様に巻き戻しの事を話した。その摩訶不思議(まかふしぎ)な話を、お祖母様は頷き聞いてくださった。
そして。
『辛かったね……味方がいない中で、1人でよく頑張ってきたんだね』
ルリアお祖母様は優しく抱きしめてくれ、頭を撫でてくださった。それはカサンドラにとって初めての事だった。両親はシャリィを抱きしめることはあったが、カサンドラはされた記憶がない。
アオ君、シュシュに抱きついた時とは違う温かさに、カサンドラは泣いた。
『ありがとうございます。私は……シュシュを巻き込んだ事に胸が痛かった。前の私はシュシュに冷たく当たることはあったが、優しくできなかったはず。でも、シュシュは最後に笑ったんです――だから、今回は泣くんじゃなくて、2人で笑いたかった』
シュシュは冷たいメイドたちがいるなかで、優しくしてくれた。血はつながらないけど、シュシュは私の妹だ。
『そうかい……』
『それで、ルリアお祖母様にお願いがあります。運命が変えられず、私が断頭台(ギロチン)に送られることが決まったら……2人の口座に私の口座から、お金を入れて渡してください。そして、会えてよかったと、楽しかったと伝えて欲しい』
『……わかった。とだけ言っておこうかね。だけど、そんな事は私がさせないからね。カサンドラは笑顔で舞踏会をたぬっころとシュシュと、一緒に帰れる』
『ルリアお祖母様……ありがとう』
そうお祖母様がおっしゃった通り、カサンドラは2人と笑顔で舞踏会から帰り、王都観光へと繰り出せた。
すべてが終わり、カサンドラの気持ちは固まる。婚約披露の舞踏会で、久しぶりにお会いした両親の態度に、親子の縁を切ると決めたのだ。
カサンドラの家族はシュシュとアオ君、ルリアお祖母様だと。
♱♱♱
馬車は貴族街に入っていく、その土地の一等地に屋敷を構えるのは、カサンドラが生まれた公爵家だ。
その屋敷の前で馬車が止まる。カサンドラはアオ君とシュシュに1人で話を付けてくるから、しばらく待っていてくださいと。御者の手を借りて馬車を降り、公爵家の門を通り抜けて優雅な歩みで屋敷へと向かっていった。
さっき『両親と縁を切る』と話をしたカサンドラを見て、アオ君とシュシュはついて行きたいと、言い出せなかった。カサンドラ自身が連れて行きたくないと言ったわけじゃないが、彼女自身が連れて行きたくない雰囲気を醸し出していた。
「……ふうっ」
「……ハァ」
2人で話すことがなく静かな馬車の中、時刻はカサンドラが馬車を降りて、1時間は経っていた。
「今まで、ありがとうございました」
カサンドラの声が遠くに聞こえた。
2人が馬車の小窓から覗くと、見送りもなく屋敷から出てきた、カサンドラの表情は晴れやかで微笑んでいた。アオ君とシュシュは待てず馬車を降りて、公爵家の門の前まで駆け寄った。
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