第66話

 薬を被り、ふくよかになったシェリィは泣き叫ぶ。そして、会場の何処かにいるのだろうけど、一向に姿を現さない、ルリアお祖母様の怒りの声だけが響いた。


 その言葉は男にとって図星だったのだろう、息を吸い込み、口をつぐんだ。


「…………」

 

「カサンドラに会うために魔法をかけて、子供がいない、伯爵家の長子ロバート・サンロバになるとはね」


 カラスの瞳が開かれる。


「うっ、やめろ! 僕は魔法使いのカラスだ! そして、カサンドラを助けて、恋仲になるカラスだ」


「惚けたことを抜かすな! カサンドラを助けるのは、たぬっころとシュシュだ。可愛い孫のカサンドラから愛するものを奪った、カラスお前は許さない。だから、お前の魔法をすべて奪うことにした……お前は今日から伯爵家のロバートだ」


「嫌だ、ま、ま、待ってくれ……魔女、僕から、魔法を取り上げるな!」


 カツンと会場に響いた杖の音と、メイド姿と若くなったルリアお祖母様が、舞踏会の会場へと現れた。




 ♱♱♱




 カサンドラ達と見た目が変わらない、メイド服のお祖母様はかなり怒っていた。その逆鱗に触れたシャリィと、男の、泣き叫ぶ声が会場内に響く。


「魔法使いカラスは消えて、今日からロバートだ。これから地道に生きていきな。案外と楽しいかもよ」


「そんなはずない! 返せ、僕の魔力を返してくれ!」


「お祖母様、私も元の姿に戻してよ。お願い……お姉様に謝るから、こんな姿ヤダぁ!」


 いくら2人が泣こうが、喚こうが、ルリアお祖母様は聞く耳を持たず。冷ややかに2人を見つめた。


「自業自得だね。そろそろ魔法も解けて、みんなの時が戻る。カサンドラ、たぬっころ、シュシュ帰ろうかい。私はこんな格好……早く脱ぎたいよ」


 会場から去ろうとすると、他なりにドラゴンのシャルル様が現れ、ルリアお祖母様をエスコートする。


「巻き込まれるのは面倒だから。私達も、こんなところから帰りましょう」


 カサンドラは舞踏会の会場を後にするとき、バルコニーから見えた大聖女マリアンヌ様を見つめ。「楽しい日々を過ごしています。マリアンヌ様、ありがとうございます」と、心の中でお礼を言い。


 かけがえのない、家族に会えたことを伝えると。一瞬だけ、大聖女マリアンヌ様が微笑んだようにカサンドラには見えた。


「カサンドラお姉様、お願い助けて」

「カサンドラ、魔女に頼んでくれ」


 ルリアお祖母様を怒らせた、2人に言われて、カサンドラは微笑み。


「私にそんな事を言われても、何もできませんわ。シュシュ、アオ君、明日は王都観光よ! 思いっきり遊ぶわよ!」


「はい、たくさん遊びましょう」

「楽しみだ!」


 カサンドラ達が舞踏会の会場から出たと同時に、会場内の時が戻る。「なんだこれは⁉︎」アサルト皇太殿下の叫び声が聞こえ。舞踏会の会場内は姿が変わったシャリィを見て騒がしくなる。


 後で知ったのだけど、実はあのお祖母様の薬。シャリィだけではなく、側にいたアサルト皇太子殿下にもかかっていたみたいで。ふくよかになった、アサルト皇太子殿下がいたみたい。


 カサンドラはその話を翌日お祖母様から聞いて、シャリィ1人だけではなくアサルト皇太子殿下もなら、お2人で一緒にお痩せになってと微笑んだ。


 あと、よくわからないロバート君には近寄ってほしくないかしら。カサンドラはシュシュとアオ君と手を繋ぎ、軽やかに舞踏会の会場を後にした。

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