第14話

 国境門を越えて先は、アオ君の出身国カーシン。この国は人族、亜人種族がいがみあうことなく、しあわせに暮らす国。


「アオ君、このままカーシン国の王都に行くの?」


 大陸の中央にあるのはカーシン国の王都。

 現国王陛下は亜人種族で、今年の秋に国王祭があり、デュオン国のアサルト皇太子殿下が招待されていた。


「いいや、王都まで行かなくてもいいんだ。もうすぐ到着する、第二都市ララサにも冒険者ギルドはあるから、そっちにいくよ」


「第二都市ララサに向かうのですね

「ドラ様、楽しみですね」


「えぇ楽しみですわ。カーシン国、各々の種族の特長をいかして剣、織物、食器、毛皮、数多くの特産品があると習いました。確か、母国語はシシン語を話すのよね」


「そうだ、カーシンの言語はシシン語」


 だとすると。アオ君はデュオン国の言語、ロース語をゆうちょうに話せる。それはアオ君は冒険者だから勉強したのだろう。


「ドラはシシン語を話せるの?」


「えぇ一応話せますわ。あとは色んな種類の鉱石が採取できるモタマリン国のリン語でしょ。小麦粉、野菜、果物が豊富に摂れるサーロン国のサーロン語。アマラン魔法都市の新アマラン語と古代アマラン語。どれも発音が違って覚えるのに苦労した覚えがあるわ。あと、形式的な挨拶だけなら、何ヶ国語は話せます」


「ハァ、スゲェ」

「ドラお嬢様、ステキです」


「シュシュ、アオ君、ありがとう」


(……でも、覚えなくてはならなかった)

 

 多くの国の言語を、カサンドラが覚えたのには訳があった。婚約者だったアサルト皇太子殿下は各国の挨拶だけを覚えて、それ以外まじめに覚えようとしない。


 アサルトが皇太子から国王陛下に就任した横で、王妃となったカサンドラが補佐する為に覚えた。


(王妃にならなくなって、必要なくなってしまったけど……苦労して覚えておいてよかったかも。いつか、古代アマラン魔法都市に行ってみたいわ)



 

 第二都市ララサに着く前に昼食にしようと、小脇道にそれて、ひらけた場所に荷馬車を止めた。アオ君は荷馬車の馬の手綱を木に結び、シュシュは飲み水を馬の前に置くと、後ろの荷台に乗り込んだ。


 カサンドラはバスケットから、今朝作ったレモンの果実水をコップに注ぎ、次に氷魔法を使い小さな氷をだしてコップに入れた。


 コップの中で氷がジワジワと溶け、レモンの果実水が冷えはじめる。アオ君は冷えた果実水入りのコップを手に取り、いっきに飲み干した。


「プファ、うまっ。魔法でだした氷で、飲み物を冷やすのか……実用的で面白いな」


「そうでしょう。書物「侯爵夫人の長い夏休み」主人公がやっていたのを真似したの」


「冷えた果実水は美味しい。ドラお嬢様の氷魔法最高です」

 

「だよな、いつもより美味い」


「フフ、二人に喜んでいただいてなによりですわ」


(この氷魔法も、アサルト皇太子殿下には手ひどく言われたのよね。まぁ、今となってはいい思い出かしら)




 荷馬車の荷台に座り、みんなで昼食をとりながら話すのは、古代アマラン魔法都市の話。


「さっき、古代アマラン魔法都市に行きたいって言っていたよな。その国へ行くとき、オレも連れて行ってくれ。古代のダンジョン、古代魔道具とか魔法がみたい」


「アオ君も? 私も一度は行って見たいとおもっていたの」


「ドラ様、旅行の計画をたてましよう。古代魔法の国アマラン……ミートパイ包、アップルパイ、チーズパイが有名ですよね」


 シュシュがいま言ったパイの種類。

 最近、読んだ本に出ていた。


「フフ、恋する二人が旅先の古代アマラン魔法都市で食べるのよね。どれも美味しそうかパイだったわ」


「色んな種類のパイか……それって『恋と食べもの旅行記』か? 恋人同士の二人が旅先で事件に巻き込まれ、解決しながら、その国の名物料理を食べるんだよな」


「アオ君も、その本を読んだの」

「まぁ、読んだのですか?」


 アオ君はコクリとうなずいた。


 食べもの旅行記は人気のシリーズで、色んな国の言葉で翻訳されているから、他の国の本は違うニュアンスで面白い。


「ムフフ。はじめて冒険に出たばかりなのに、次の旅行が決まったわ。さぁアオ君、シュシュ、今日の冒険も楽しむわよ!」


「おう!」

「楽しみましょう!」




 また、カーシンまで冒険にでたカサンドラの屋敷に。今度、黒いローブをまとった誰かが近付いた。その人物はエントランスに置かれた、真っ白な箱を見つけて手に取る。


「お、これは本人にしか開けれない魔道具の手紙箱……わたし宛ではないな、誰宛だ?」


 しばらく、その黒いローブの人物は白い箱を眺め、手をかざすと手元に水晶玉が現れた。その水晶玉を手の上に乗せて『遡りの魔法』をつかった。

 

 手の中の水晶玉の中でときが戻りる。古い型の馬車から降り、屋敷の鍵を開けて中に入る長い黒髪の女性と、眼鏡のメイド服を着た二人の姿がうつる。


「おやおや、わたしは娘に屋敷の鍵を預けただけだが。その鍵が娘の子供に渡り、最終的にひ孫に鍵が渡ったのか」


 旦那も亡くなり娘も結婚をしたからと、フラッと旅に出て、数十年ぶりに戻ればそうなるか。

 

「ご、ご主人様~」

「ジョロ、どうした?」


 そこに一羽のフクロウ――ジョロが飛んできて、そのローブの人物の肩に乗った。


「……そうか。そのひ孫はカサンドラと言って、いまカーシン国に行っているのか。その子が帰ってくるまで、中でゆっくりと待つかな」


 ロープロの人物は水晶玉をしまうと、白い箱を持ったまま屋敷の鍵を開けて、屋敷の中に入っていった。

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