第13話

 別荘に新たな家族、アオ君が増えてから一週間。

 

 本日は待ちに待った冒険ギルドに行く日、といっても、デュオン国にある冒険者ギルドではなく。国境の先にあるカーシン国の冒険者ギルド行く事にした。


 今カサンドラが住んでいるデュオンで、冒険に必要なギルドカードを作ると……カサンドラが取得して、冒険者になったと、王宮の冒険者管理局に伝わってしまう。


 またそこで、公爵令嬢カサンドラはアサルト皇太子殿下に婚約破棄されて、やけで冒険者になったとか。ツレに男(アオ君)がいるなどと不愉快な噂が立つ。


 そんな面倒なことは避けたい。


 いろんなリスクがある、サタの街の冒険者ギルドに行くより。国境門を越えて違う国へ入国するのは、旅行気分も味わえていいんじゃないかと、昨夜の夕食の時間にみんなと話し合った。


 デュオンと関わりがある隣国には、アサルト皇太子殿下とカサンドラの婚約破棄の話がすでに伝わっていて。カサンドラが冒険者ギルドに顔を出すだけで、噂になるかもと話した。


 そうするとアオが。


『じゃ、オレの故郷――カーシンがいいよ』


 と言ったのだ。


『カーシン? カーシン国は確か、緑豊かで亜人族、人族など、いろんな種族が住んでいるのよね』


『あぁ、そうだ。ドラはよく知ってるな』

『まぁ習ったからね……』


 王妃教育で……とは言わなかった。

 だけど、アオ君は気付いたのか。


『カサンドラはオレの知らないことを、たくさん知っているだろうが。冒険者については、オレに任せろ! まあ、知っている範囲だけど』

 

 アオの故郷、カーシンの冒険者ギルドで冒険に必要な、ギルドカードを作ることにした。次の日の早朝の朝食後。カサンドラとシュシュはお弁当作り。アオ君は近くの村で移動に必要な、荷馬車を借りられないか聞きに行っている。

 

 


 お弁当を作るカサンドラとシュシュは、初めての冒険に花を咲かせていた。


「ねぇシュシュ。いまから行く冒険には、本の中に出てくるモンスターがいるのよね」


「はい、いると思います。カサンドラお嬢様、モンスターとは『ドロドロしたスライム』『緑色の皮膚をしたゴブリン』の事でしようか?」


 シュシュはファンタジーの本に出て来る、スライムとゴブリンの名前をだした。その本はカサンドラも読んでいて内容は把握している。


「まあ、あの本のスライムとゴブリンがいるの?……少し怖いわね」

 

「私も、少しだけ怖いです」


 モンスターの話をしながら、ハム、レタスなどを挟んだサンドイッチと、鳥のソテーを挟んだサンドイッチをお弁当に詰めていた。そこに近くの村で荷馬車を借りて戻って来た、アオ君はカサンドラ達の話を聞いて笑った。


「クク。ドラとシュシュ、楽しんでいるところ悪いけど。初心者の二人にモンスターはまだ早い。今日は森で薬草の採取だな」


「え? 森で薬草の採取だけ?」

「そうなのですか?」


「そうだ。それに、モンスターの討伐クエストが受けられるのはレベル5から。初心者はお使いクエスト、採取クエストでレベルを上げないと、討伐クエストは受けられない」


「まぁ、レベルが5にならないと、討伐クエストが受けられない?」


 ウン、ウンと頷くアオ君に。少し、残念だと思ったが、カサンドラは口には出さなかった。




 みんなで荷物を荷馬車へと詰めていた。アオ君は、どことなく落ち込んでいるカサンドラとシュシュに。


「ドラ、シュシュ、そんなに落ち込むな。今日は冒険ついでに、ピクニックへ行くと思えばいい」


「ピクニック? ……私、ピクニックをしたことがないですわ」


「はい、私もです」


 そう答えた2人に、アオ君は驚いた。


「そうなのか⁉︎ 今日は天気もいいし、お日様の下でみんなで弁当を食べるのは格別だぞ」


(お日様の下、みんなでお弁当を食べる? それは楽しみだわ)


 カサンドラとシュシュの笑顔をみて「採取も、いろんな発見が出来て楽しいよ」と付け加え、アオ君は御者席に座った。


「ますます、冒険が楽しみになりましたわ」


 カサンドラはウキウキと荷台へと乗り、シュシュは国境門で国境警備騎士にデュオン国からカーシン国へと入国する為、通行税の支払いのため、アオの隣に座った。


「じゃ、カーシンへ出発だ!」


 屋敷を出発して一時間くらいで、国境へとつき、国境警備騎士に通行税を払い。カサンドラ達は石造の国境門を越えて、緑豊かな隣国カーシンに入国した。



 

 カサンドラ達が出発した二時間後。


 早馬が屋敷へと到着し、屋敷の呼び鐘を鳴らしても誰もでてこない。手紙を届けにきた配達人は、受け取り人しか開けられない「魔道具の手紙箱」に依頼された手紙を入れ、エントランスに置き去って行った。

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