四葩を潤す小ぬか雨

四葩を潤す小ぬか雨

朝、目が覚めると聞こえてくる雨の音。


地面を叩きつけるような、激しい音がする。


窓を開けると、ぬるく湿った空気が部屋を包み込む。


頬を撫でる黒南風くろはえに、半透明の雫の光線。

五感が梅雨の幕開けを報知する。

受領ずりょうしましたと言わんばかりに、ため息をついた。


まだ朝だというのに、空一面が鉛色なまりいろに塞がれていて、ひと月先の入道雲が恋しくなった。


ひと月。


ひと月も雨曝あまざらしになれば、体に苔が生えてしまうんじゃないか。

と憂鬱になったところで、考えるのをやめた。


このままじめじめした思考を貫いていては、本当に脳に苔が生えてきてしまう。


少しでも憂鬱な気分を取り払いたくて、

雨がやる気をなくした頃に、ベランダに出てみた。


母の育てている花が見たかったのだ。


燃えるように花めく赤いサルビアに、手まりのような花姿のバーベナ、川のようにしだれるトレニア。


花壇を彩るそれらは、雨粒に潤され、日常を逸脱いつだつした美しさを放っていた。


そのなかでも、一際目立つ花がいた。


紫陽花。


小さな花びらで構成された、色とりどりの七変化。


なぜかはわからない。けれど、水滴に飾られた秀麗しゅうれいなその姿に、すっかり雨など忘れてしまうほど、見蕩みとれていた。

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四葩を潤す小ぬか雨 @miyu110

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