第6話 シンデレラのような終わりを
「……なら今からでも楽に生きていこう!」
「ん、え?」
そんな簡単に言わないでよ。もう未来に希望を抱けない。
小学生になったら……中学生になったら……高校生になったら……ずっと今まで未来に期待して弱い私は頑張ってきた。
次こそ友達ができるはず、先生は優しいはず、クラスに馴染めるはず……その願いは、叶ったと思えばすぐにまた孤独と苦痛が戻ってくる。
「……楽に生きると言ってもどうするわけ」
「……簡単さ!
まず、身近なことで言えば、数学と社会の先生に当てられるのが怖いんでしょ?どっちもいつも機嫌悪いし、解答まちがえたら結構責めるしね。
だから……先生に当てられた際には僕が後ろから答えを言おう。君はそれをそのまま言えばいい。どう?だいぶ肩の荷が下りるんじゃない?」
目を見開きコクコクとうなづいた。だけど、まだ納得いかない部分もある。
「……ライアーが結構物知りで、頭がいいことは何となく分かるけど、でも、全て完璧に答えれる保証はどこにもないよ」
「……君はもしかしたら僕が今まで自主的に勉強してきたと思っているかもしれないけれど、それは違う。
僕が死神としてこの世界に存在した瞬間から、人が何十年とかけて学んできた事が既に頭に入っている。
だから僕は勉強していないし、仮に知らない問題が来ても目に入れたらすぐ答えれるよ。……仕組みは自分でも分からないけど」
え。じゃあ始めから知識が付いた状態で生まれてくるってこと……?それに新しい問題でも即座に対応できるわけ……?
「……死神ってそんな最強だっけ?
……というかなんか私の中の死神と言えば、魂を管理したり、死を誘うイメージがあったり鎌持ってたり……骸骨だったり」
「なんか大抵の人はそのイメージが強いけど、まあ実際は魂は食べるものだし、容姿は僕みたいな見た目がほとんどだね。
ちなみに一体一体、死神が持つ能力は違うんだよ〜」
ものすごく羨ましい。学校も仕事も行かなくていいし、食料はありまくりだから困らない。おまけに容姿端麗で死神仲間もいる。
そういえば、ライアーの右目部分は前髪で覆われてて見えないけど何か理由があるのかな。
でもなんとなく聞かない方がいいという勘が働いたので聞かないことにした。
「今って1月下旬でしょ?なんなら来週から2月だし。あともう少しで君は高3に進級するでしょ?……クラス替えもある。それを境に君の理想を実現してみない?」
「理想……?」
たまに家族でドライブに行くことがある。その際に今の自分とは全く違う理想の性格で、毎日を楽しく過ごす自分をイヤホンで音楽を聞きながらよく妄想する。
「うん。人は誰だって理想を描くもんだと僕は思ってる。だから君にも理想があるんじゃないかと思って」
「……理想を実現するってそう簡単な事じゃないと思うけれど、でも……ライアーがいるなら出来そうだね」
そういうと口角を上げ、生き生きとした表情になると私の理想を聞いてきた。
「……文武両道で、
……まぁつまり、非の打ち所がなくて常にトップで居たい。それが私の理想」
「ふーん、意外とあるあるな理想な気がするけど、君がそう望むなら僕が叶えてあげよう」
「……私に依存させるため?」
「そうだね。……僕の目的はそれ。お互いにとって良い案だと思うけどどう?」
理想が叶う代償にライアーに依存する。
もしある日ライアーが居なくなって1人で全部やる時が訪れた際には、きっと自分の無力さを知る羽目になり、1人では生きていけなくだろう……。
「……その案に乗るよ。高3に進級してから実行ね」
「あぁ…。乗ってくれて嬉しいよ」
その一言だけいつもと声色が違かった。普段の声も男性らしい低音で、冷たさと温かさが融合したような感じで好きだけど、深みのあるミステリアスなその声も好きだなと密かに思った。
「ふふ、じゃあ僕はこれで」
……満足気な雰囲気を漂わせながらさらっといなくなった。
時計に目を移すと、長針と短針が天井を向いていた。……午前0時。まるでシンデレラにかけられた魔法がとけるようにライアーも消えていった。
"約束"……というよりかは"契約"みたいな感じがしたな……。
でも、私は理想的な学校生活、ライアーは私が依存することを求めているわけだけど、もし……依存しなかったらどうなるんだろう……。あ、さっそく契約違反な考えしちゃった。
シンデレラと私は程遠い性格だとは思う。
けれども、ドレスをボロボロにされて泣いているところに現れたフェアリーゴットマザー、自分の描いた絵を悪く言われて泣いているところに現れた死神。そのおかげで、シンデレラも私も救われているのは変わりないないと思う。……最後、シンデレラは王子様と結ばれてハッピーエンドを迎える。
……私もハッピーエンドを迎えれるのかな、……それは強欲な考えかな?
気づけば瞼は閉じていた。
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