第5話 ヒビの入ったガラス
「……今の君だったら普通にクラスメイトとか馴染めそうだけどね」
「え?」
思わず話の内容がガラリと変わったので聞き返した。
今のようなありのままの感じで話すのは、自分にとっても楽だし相手もおそらく会話しやすいだろう。
でも誰に対してもそのようには振る舞えない。
「君って面白いよね。家族に見せる"自分"、友達に見せる"自分"、クラスメイトや先生に見せる"自分"、そして僕に見せる"自分"。いろんな"自分"を使って生きている」
「てっきり皆そういうもんだと思ってたけど、私はちょっと過度なのかもしれない」
「うん、……小6くらいからじゃない?
…… 過去に会った人が君を苦しめている」
心臓がドキリとした。二の腕をグッと掴む。
ライアーの顔は心配するような表情ではなく、妖しげな笑みをうかべている。
「……ね、その話はまた明日にしよう。もう夜中だし、今話したら病みそう」
「分かった、今日はこれくらいにしよう」
そう言うと、今度はブーツを忘れず宵闇の中へ消えていった。
……つい『明日にしよう』とか言っちゃたけど正直思い出したくないな……。
あの顔は絶対楽しんでる顔だった。余計言いたくないや……。
あっという間に夜がやってきた。
今日は金曜日だから嬉しさと解放感で溢れていたが、過去を話すことを思い出し頭がモヤモヤする感覚だった。
「あ、来た」
スっと窓から透明な状態で現れた。
「お!10時ぴったりじゃん。
さて、今夜は僕が君に質問しようじゃないか」
「お断りします」
「え〜昨晩は僕、ちゃんと質問、答えたじゃん。
それに君『明日話す』って言ってた。
……約束を守り、平等が好きな君らしくないじゃないか」
その言葉に目を見開く。……もうこの死神、私の事知りすぎてて怖い。
「はあ……。分かったよ。
過去って言ってもどこから話したらいいの?」
「保育園の頃くらいから」
うわ……マジか。
「……保育園の頃は、虐められてた記憶が強いかな。でも当時は虐められている自覚はなくてみんなが、『ほいくえん、いきたくない』って言っている理由はてっきり仲間外れにされたり、髪を引っ張られたり辛いからだと思ってた」
でもそれは私だけであり、みんなはもっと安易な理由だった。髪を引っ張られたり、名前を馬鹿にされたり仲間外れされたのは自分だけだった。
でも、それがいじめだと知ったのは小学2年生くらいの時で悲しみがまた襲い、憎悪という感情も初めて知った。
それからすぐにアルバムの中から、特に私を虐めた子の写る写真を取りだして、ハサミの刃で思いっきり頭の部分を刺し貫いた。 ……途中でお母さんにものすごく叱られたけど。
あの子は謝らなかったし、3年間くらいそんな扱いを受けてきたと思い出したら、許せなかった。
「まあ、だから小学校にあがった頃はもう保育園のような事は起こらないと思ってたけど、小1から小3は地獄だった。
初めて小1で出来た友達には、よく頬をつねられて『痛い!』と言ってもやめてくれなかった。あと、その友達が好きだった男の子に誤って後ろから押されて大怪我した。
小2には、私がよく見ていたアニメが先生が余談で話す時によく馬鹿にしていて、すごい不快だった。それにクラスメイトも賛同するから余計にね。
……ペアになった男子児童によくペア活動の時、手こずってたらよく舌打ちされたのも泣きそうだった。
小3には初の男性教師でものすごく怖かった。勉強についていけなくて何度も先生の前で怒られては泣いた」
楽しい思い出ももちろんその中にはあったけれど、それより嫌な思い出だけがどうしても鮮明に残っていた。
「……小4から小6もまぁ、酷い目に遭ってたよね」
「なんかやっと、クラスのみんなと仲良くなってきたら一部の子から陰口言われてたけど、同じ絵描き好きの子たちといっぱい絵を描けたのはめちゃくちゃ楽しかった!」
「……中学生の頃の君は、めっちゃ大人しかったよね。ずっと本読んでるか予習してた」
「うん。
美術部に入部したけど、なんか皆お喋りして過ごしてて、私も楽しそうだったから輪の中に入ろうとしたんだけど、全然話についていけないし省かれてる感じがして限界だったから1年で辞めて、友達も出来なかったからそんな風に過ごした」
流行りを抑えてなかった自分が悪いのだろうけど、興味のないことを見聞するのは苦痛でしかないし、周りに染まるのではなく自分の好きなものを尊重したかった。
───みんなと仲良くしたい気持ち、けれどまた仲良くなっても虐められるかもしれない。
クラス替えしたら忘れられるような存在になり、やっとできた友達は離れていき孤独に戻る。
───悲しい。辛い。怖い。
いつも私の心の中には必ず主にこの3つが存在する。
世の中には数え切れないくらいの人々が私より苦しい思いを患っているという事実は勿論わかる。けれど……
「もっと楽に生きてみたいな」
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