第3話 名前聞かなきゃ!
寝ぼけ眼で壁に掛けられた時計を見ると、針は6時半を指していた。
……あーそろそろ起きないといけないのに、まだ1月下旬だから空気がひんやりしている。
布団を頭まで覆いぬくもりを30秒ほど噛み締めるとゆっくり体を起こした。
「……あ、ブーツなくなってる」
私が寝た後に取りにきたのかな。床には白紙のスケッチブックだけ残っていた。
学校へと登校中、昨日の放課後の事を思い出し、歩数を進めた分だけ心拍数が上がっていった。
……何も心配の言葉とか掛けられないよね…昨日見てた男子らが先生とかに言ってなければいいけど……。
教室に入るといつも通りな雰囲気で何故か安堵した。……というか私、怯えすぎだよね。うん、自分でも分かるわ。
「ぇ……!?」
思わず小さく声が出た。
後ろのロッカーの上に彼が座っていた。
一旦、1番後ろの自席まで行き、カバンを左側に掛けると何故か忍び足で彼の元へ向かった。
どうやら他の人には見えない感じで私だけ見れるようだった。
幸いにもみんな前の方で会話やスマホをいじっていたためロッカーの方には誰もいなかった。
「……なんでいるの」
小声で話しかけると、脚をぶらぶらさせながら口を開いた。
「なんでって……なにもする事ないから授業参観しようかと思って」
通常の音量で話したため反射的に周りを確認したが何ともなかった。
……というか暇潰しで勝手に1人授業参観しても絶対面白くないに決まってる。
「あ、昨日ブーツ忘れていったでしょ」
「うん。……2、3時間後に気づいて取りに行った」
「え、おそ」
「君もすぐ気づいたなら窓開けて『ブーツ忘れてるよー!!!!』って言ってくれてもよかったんじゃない?」
「いや、夜中だったし、たぶん後で取りに来るだろうな〜と思ったから寝た。
……あ、もうそろそろ先生来るから座るね」
そう言い残し、席に座るとチャイムが鳴るのと同時に先生も教室に入室した。
朝のホームルームが終わり、4時間目の数学の授業をしていた時だった。
「栗本ーここの答えは?」
え……。やばい……まだそこの問題までたどり着いてない。どうしよう。でも答えないと怒られる。
「……48」
後ろから彼が答えた。
「よ……48……」
「正解だ。次……小山、ここの答えは?……」
一か八かで信じて答えてみたけど当たってた……よかった。後でお礼言わなきゃ。
意外と頭良いのかな……というか、今4時間目の授業だけどずっと後ろのロッカーに座って見てる。このまま今日はあんな感じなのかな。
数学の授業が終わり、後ろを振り向くと彼は居なくなっていた。……お礼言いたかったけどまた現れた時にでも言おう。ていうか……いい加減、名前聞かなきゃ!英文を日本語訳するようにずっと「彼」呼びしてる。
結局、授業中も放課後も現れることはなく22時となった今は、デスクチェアに座りながら床に置かれた白紙のスケッチブックを眺め、彼が来ないか待っている。
「あれ、もしかして待っててくれた?」
「うわ!?びっくりした……うん、待ってたよ。」
左手に持っているブーツを白紙の上に置くと、カーペットの上に長い脚を伸ばして座った。
……その座り方、大抵の人は痛がるけど死神は痛くないのかな。
……は!まずはお礼と名前聞こう!
「あ、あのさ数学の授業の時、答え教えてくれてありがとう。助かったよ。
……それとまだ名前聞いてないから教えて」
「あ〜名前ね。……君が決めてよ。いつも人につけてもらっているから」
まさかの自分でつけるスタイル……。
じゃあ今までいろんな名前をつけられて生きてきたんだ……なんかごちゃごちゃになりそうだから絶対1つの呼び名の方がいいと思うけどな……。え、 名前どうしよ。
……あ、
「……ライアーにする」
「え、……『嘘つき』?
……今までつけられた名前の中で1番酷いんだけど。 理由を是非聞きたいね。」
興味津々に聞いてきた。怒りはしないんだ。
「……私が依存したら食べると言ったけど、もしそれが嘘で、ただ弄んで捨てる可能性だってあるからあまり本気で受け止めないようにという意味を込めて。」
「ふはっ!疑心暗鬼で安易に人を信用しない君らしいネーミングだね」
なんかOK貰えたようだったからよかった。
……ていうか、私の事知りすぎじゃない?
それじゃあ……早速
「……じゃあ、名前も聞いたところだし質疑応答していい?」
「うん、良いよ。ところで君は自分の名前言わないんだね!」
「あ……忘れてた。」
質疑応答する前に自己紹介してないじゃん、私。
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