第2話 残酷な優しさ



「あれ?来るタイミング間違った感じ?」




「へっ!?」


誰!?

背後から突然聞こえた声に心臓が口から出てきそうになった。


勢いよく振り返ると、黒いドレスのように広がったコートが印象的な長い銀髪の男が立っていた。


「やあ、はじめまして。まあ、僕からしたら全然はじめましてじゃないから変な感じするけど。直球で言うと僕は死神さ!」


「……」



……いやいや、いくらなんでも直球すぎる! こっちはただでさえ突然知らない奴が現れて状況が整理できてないというのに。

……ってあれ?


「あの……なんで裸足なんですか」


黒のシックな雰囲気の服装に合わない真っ白な足が露出していて思わず聞いた。ちなみに左手には彼のものと思われるリボンの付いたブーツを持っていた。 ……靴下を履かないでブーツを履いていたのかな。


「えぇ、...はは!最初にする質問それなの?

まあいいけどさ……、えーだって日本では人の家に入る時は靴を脱いで入るもんでしょ。……今までそのルール知ってても、知らないフリして土足で入ってたけどね。 でも君は綺麗好きだから合わせてあげたってわけ!」


ミステリアスな雰囲気から無邪気な笑顔がこぼれた彼になんとなく違和感を覚えながら、意外と自分がこの状況に冷静でいられていることに内心驚く。

というか、なんで私が綺麗好きなこと知っているんだ。


「あ、そこのスケッチブックの紙、1枚貰うねー」


そう言うと、買ったばかりのスケッチブックの紙をベリベリっと音を響かせて抜き取り、床に置くと紙の上にブーツを置いて、私のデスクチェアに座った。

綺麗好きな私を気遣って直でブーツを床に置くことを控えたらしい。


……あ、1番聞きたいこと言わなきゃ。



「……貴方はなぜ今、私の目の前に現れたんですか。……その感じだと私の事、結構前から知っているようですけど」


「……そろそろ君の魂を仕上げる準備にはいろうと思ったから、今日でいいかなーって」


「魂を仕上げる……?」


「死神は人の魂を食べないと生きていけない。魂はその人の性格と人生で主に味が変わるようになっている。僕は死神の中でも食通だからさ、しばらくの間ターゲットの人間を観察していい感じになったら姿を現し、"最後の仕込み"に入るスタイルなんだよ」


「……"最後の仕込み"と言っても何をするんですか」


「……それはね〜






優しさを与え、君が僕に依存するような形をつくるんだよ」



「え……。なんでそんなこと……」


……依存させる形をつくるという事はこれからずっとこの死神と会うのかな。


「うーんとね、今もし君の魂を食べたら苦すぎると思うんだよね。だから甘さを足して僕好みの味に仕立てるわけ」


……じゃあ私はこの男にいいように弄ばれて最期は食われるのか……。



「あ、あとさ僕に対して敬語はいいよ。なんか違和感あるし。僕は死神だから人のように傷ついたりしないから気を遣わず思ったことを話してよ」


「……わ、わかった。」



時刻は23時5分を指しているのを彼と同時に見た。 そろそろ寝る時間なんだけど……。


「君、明日も学校でしょ?今日はここらへんにしてまた明日、質問攻めしてきてよ」


「うん……そうする」


そう言うと彼は部屋の小さな窓の方へ向かうと徐々に身体が透け始めたと思うとそのまま壁をすり抜けた。ちなみにここはアパートの2階である。

他にも超能力的な事ができるのかな……。明日は質問攻めしよう。




「……あ、ブーツ忘れてるじゃん」


取りに来るのを待つのは面倒くさいからそのまま消灯し、高身長イケメンの物とは思えない可愛らしいリボンの付いたヒールブーツをじっと見ながら眠りについた。








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