アパタイトは密会で。
セリ
1章 こたえを探して
第1話 涙の一日
あ、水筒忘れた……。
リュックサックを背負い校門を抜けようとした手前で、お茶を飲もうとしたら水筒がなかった。……めんどくさいけどお母さんになんか言われそうだし戻ろう。
階段を登り、教室に入るとまだ8人くらいクラスメイトがスマホを片手に楽しそうに会話したりしているのを横目で見ると自分の席に目を移した。
机の左サイドについているカバン掛けから水筒を取った時だった。
「ねーこれ、栗本さんに描いてもらったんだけど見てー」
「え!KーPOPアイドルのRじゃん!めっちゃ似てる〜」
あ……さっき帰りのホームルームが始まる前に水野さんにあげたKーPOPアイドルの人物画だ。
「そうなんだけどさ、なんか目がギョロっとしてるっていうか、いつも見てる感じと違うんだよねー」
「あ〜確かに?なんか夜中とかに起きて目が合ったらちょっと怖いかも」
「なんかせっかく描いてくれたけど、飾りたくはないや……うーん、部屋の机の引き出しにでもしまっておこうかな」
「アハハ、さすがに捨てるのは罪悪感あるし、呪われそー」
私が居るのにも関わらず、一生懸命描いた絵に不満をぶつけ続ける。2人は私が居る事に気づいていない様子だが、一部の男子はそれに気づいて青ざめた様子で何も言わず、ただただその光景を見つめていた。
息が詰まる……目がじわじわと熱くなっていく感覚がする。これ以上この空間に居たら涙で溢れてしまう……早く家に帰ろう。
足音を立てないように静かに教室を出ると早足で階段を降り、校門を抜けた。
……ああ、よりによって今日はお母さん、シフト入ってないから家に居るんだった……。
家に帰ってすぐ泣きたい気持ちだったけれど、夕飯の時には必ず顔を合わすから泣き跡が見つかってしまう可能性がある。
決してお母さんが頼りないとかではない。私と違ってお母さんは優しいし、メンタルだって強い。だからこそ、もし今日の事を話したらあの2人を責めるような発言をするだろう。
……違う。それが聞きたいわけじゃない。
___こんな時に私が聞きたい言葉ってなんだろう。
家路につき、なんとか夕飯まで耐えていたが、お風呂に入っていると放課後のあの風景が蘇ってきて我慢出来なかった。
シャワーから床へと噴射される音に紛れて嗚咽した。
8時間以上は費やしたであろうあの絵。 小、中学校の頃はよく褒められたのに……あれは全部お世辞だったのかな。
充血したような赤い目が見られないようにバスタオルで顔を隠してリビングに行ったが、幸いにもお母さんは洗濯物を干してて中にはいなかった。ちなみにお父さんは仕事の人と飲みに行っている。
___どれくらい経っただろう。お風呂から上がっても気持ちがリセット出来ずまだ泣いていた。
こんな些細な事で泣き続けてしまっている自分が将来不安で仕方がないと思いながら、眠りにつこうと部屋の電気を消すために立ち上がった。
その時だった。
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