その6 拉致には拉致を
某国によって拉致された皇国民の人数は20数名に及ぶ。数名を除いては未だに帰国に至っていない。拉致された張本人、拉致された家族の気持ちは如何ばかりか。某国は交渉に乗らず白を切り通し、軍事的な威嚇行動を続けるばかり。いたずらに歳月ばかりが過ぎていくが、家族からすれば1分でも1秒でも心痛、苦痛で気が狂いそうになる。これが永久に続くのだ。永久に。
痺れを切らした皇帝は、警察でも軍隊でもない、皇帝直属の秘密部隊「忌菊」を招集。某国へ潜入し国王の娘を拉致するよう命じた。忌菊は外遊中だった某国王の娘の拉致に成功。それを知った某国王は怒り狂い、皇国との全面戦争への突入を表明する。宣戦布告と同時に首都への核攻撃開始をメディアを通じて宣言した。皇帝は即座に反応する。「我が皇国へ攻撃をしたければすれば良い。ただしあらゆる攻撃に対しての盾は、貴様の娘になって頂く。核を打ちたくば打つが良い。ただし貴様の娘も木っ端微塵に地上から消し飛ぶだろう。」
娘を盾にされるとあって某国王はもう発狂寸前であった。あらゆる手段を取ってでも娘を取り返せ、誰を殺してでも構わんと軍隊に命ずる。しかし皇帝はこう返す。「それも構わぬが、我が皇国に一点でも被害が被ることになれば、その都度に応じて娘の指を一本ずつへし折ってやろう。」
満を持して皇帝は某国王に告ぐ。「娘を無傷で返して欲しくば、貴国が拉致した我が皇国民を、全員揃って返してもらおう。」そしてこう続けた。
「貴様は親を、子を某国に連れ去られ待ち続けている人間の気持ちが判るか!そうだ、貴様のその発狂寸前の精神状態が常に、永久に続くのであるぞ!貴様の娘もさぞかし心細かろう。一体自分は帰れるのだろうか。殺されるのであろうか。暴行されるのであろうか。異国民の子を孕まされるのかと。」
降参した某国王は拉致被害者の全員を解放した。そして皇国も某国王の娘を帰還させた。
皇帝は曰く。
目には目を、歯には歯を。時間は止まらず、苦痛のみが増大していく。
人の人生は短い。手をこまねいている場合ではないのだ。
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