その7 宝くじ
「かなり進行しています。末期の食道がんです。全身に転移しています。・・・お酒もだいぶ飲まれましたね。」
そう医者に告げられても俺は何とも思わなかった。何とも、と言ったら噓になるか。ようやく死ねると思った。率直に。
会社をリストラされてからというもの、俺の人生なんてクソみたいなものだった。
妻にはよその男に寝取られて逃げられた。息子は職場でイジメにあって発狂して精神病院だ。箱入り娘だった娘は悪い男に覚醒剤に手を染められブタ箱入りだ。
何とかバイトを掛け持ちして踏ん張っていたが、遂に家を手放した。
いつ死んだって構わないと自暴自棄になって酒に溺れた。
べろんべろんに酔っぱらうと、TVニュースで流れる事件とか事故、病気で死んでいく人が可哀想でならなかった。
いくらでも代わってあげられるのに・・・。
俺みたいな夢も希望も無い人間がグズグズと生きて、生きることを望んでいる人達が死ぬ。
夢も希望も無い。本当にこの世の中には夢も希望も無いよ。どこに明るい未来がある?どこに夢を持てば良い?おいおい政治家さんよ、自分らさえ金があれば他はどうでもいいってか。「職業政治家」ばかりで本物の政治家って日本にはいつからか居ないんだ。
金、金、金ばかり。金を稼いだもん勝ち。金の為だけに必死になって生きている生き物って人間ぐらいだろ。それがこの世界の仕組みなのならクソだ。
だから俺は早く死にたかった。早く人生を終えたかった。しかし俺には自死は選択できなかった。俺の母親は自死を選択したからだ。
病院で余命宣告をされての帰り、真っ昼間の公園のベンチで酒をガンガン飲んでやった。これで死ねるぞ。やっと死ねるぞ。
クソみたいな世の中から堂々とおさらばだ。俺の足元にどこからか風に乗って一枚の紙っぺらが飛んで来た。宝くじだった。拾ってみるとしみじみ思った。馬鹿馬鹿しいよな。こんなもんに夢を託すしかないのかよ。くだらない。実にくだらない。人間社会なんて実にくだらない。もう懲り懲りだ。人間なんて懲り懲りだ。
俺は千鳥足で冷やかしがてらに宝くじ売り場まで行った。酔った勢いで「こんなもんで人生が変わるんですかね~!」とおばちゃんに宝くじを突き出した。困った表情のおばちゃんは「ご確認ですね、少々お待ちください。」と言うもんだから、肩肘をカウンターに乗っけて待ってみた。
「おめでとうございます!1等・・・当たってます!」
やっぱり人生なんてクソだろう。もう死ぬって人間に、生きる気力がない人間に1億円なんて必要ないじゃないか。
本当に俺の人生ってクソだよな。今さら1億円かよ、ちくしょう。
あの世に金は持っていけねぇぞ・・・。
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