第15話:正座   ♥

 ツバキ先輩に「私も描いてもらおうかしら」と言われた。俺がアオイやサクラのヌードを描いていると知った上で言っているからには、自分もヌードになるということを匂わせているのかも知れない。


 今書いている風景画の中に、制服姿のツバキ先輩を紛れ込ませてみたのは、彼女の反応を見るためだった。最初はヌードにしようかとも思ったが、学校で描くにはさすがに不適当だと思ったし、そもそも想像だけで裸体を描くのはあまりにも失礼なような気がした。


 モデル本人と絵に描かれた人物は別人、つまりモデルの匿名性について先輩が理解してくれたことはありがたい。もしヌードを描くなら、やはり顔が見えない後ろ側からだろうか。


 **


「正座は苦手なんだけど、崩してもいい?」

「ああ、一番楽な座り方でいいよ」


 今日もまた、アオイをモデルにデッサンしている。今日は座ったポーズだ。


「ねえ、ツバキ先輩のこと考えてるでしょ?」

「バレだか」

「先輩は、私と違って姿勢がいいもんね。正座姿が絵になるだろうなぁ」


 アオイの裸の背中を描きながら対話する。ツバキ先輩は茶道も習っていると聞いたことがあるから、きっと正座も得意なのだろう。


「私も、なかなかモデルに慣れてきたでしょ?」

「そうだな。背筋なんかも意識して伸ばすようになってるし」


 以前は、すぐに背中が丸まってしまっていたのだが、今では俺が指摘する必要はほとんどなくなった。


「妹にも、スタイル良くなった? なんて言われたりして。秘密、教えちゃおうかな」

「さすがに、それはまずいだろ」

「冗談だってば」


 アオイには2歳下、つまり中学3年生の妹がいる。俺たちの関係については薄々気づいているようだが、姉の裸を描いていると聞いたらどんな顔をするだろうか。


 *


「よし、できた。お疲れさま」

「やぁん♪」


 座ったままのアオイを後ろから抱き、ついでに耳たぶに口づけする。そしてスケッチブックを前に持ってきて、一緒に見る。


「ヌードを描くのもだいぶ慣れてきたよね」

「モデルが良いからな」

「もう、調子のいいこと言っちゃって」


 アオイは茶化すが、気の合うモデルというのは絵描きにとっては何にも代えがたい宝である。


「ねぇ、それはちょっとお預けしてくれない? 今度は私が描きたいから」


 彼女の柔らかな胸に手を伸ばそうとしたら、やんわりと制止されてしまった。


「我慢できないかも知れないぞ?」

「大丈夫、それは私も同じだから。破裂寸前のアキを描いてみたい」

「しょうがないなぁ」


 俺は服を脱いで、破裂寸前の股間を見せつけた。


「さすがに、これを描いたのは学校には持っていけないわね……」

「意外と維持するのは難しかったりするから、手早く描いてくれよ」

「萎えたら元気にしてあげるから、頑張ってね♪」


 それだけ言うと、アオイは俺の先端にそっと口づけをした。


 **


「今度は座ったポーズなのね。よく描けていると思うわ」


 部活で、ツバキ先輩に座ったアオイの裸婦画を見せる。今回はぎりぎりで顔が見えず、乳首も見えない角度からだ。


「本当は正座した姿を描きたかったんですけど、苦手だって言われちゃいまして」

「そうねぇ、正座した姿のほうが美しいでしょうね」


 正座をすると自然と背筋が伸びる。どんな女性でも、きれいに正座をすればそれなりに美しく見えるものである。


「先輩はお茶やってるんですよね。正座とかは得意ですか?」

「得意かどうかはわからないけど、1時間くらいなら問題なくできるわ」

「さすがですね。サクラも正座は苦手なみたいなんですよ。まぁ、俺もなんですけど」

「私は自分の部屋も畳敷きだし、普段から正座には慣れているかも知れないわね」


 俺は想像する。畳の上で着物姿で出迎えてくれたツバキ先輩が、俺の前で若干の恥じらいを見せながら、それでも堂々と肌を晒していく姿を。


「先輩、モデルになってくれませんか? もちろん服は着ていてもいいので」

「そうねぇ。悪くはないかも知れないわ。ただし、アオイさんとサクラさんも連れてきてね。男の人だけ上げるわけにはいかないから」


 昔ながらの厳しい家庭というイメージがある。適齢期の男女が部屋で二人きりになるという状況は、親が許さないのかも知れない。


「わかりました。あとで日程とか話し合いましょう」


 ヌードへの道のりは険しそうだが、モデルさえ引き受けたのならもう一押しだ。あとはアオイとサクラの存在がどう出るか。

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