ツバキの章

第13話:首周り   ♥

「終ったわ。お疲れさま」


 今日の部活では、部長のツバキ先輩に頼まれてモデルになっていた。もちろんヌードでは無いが、喉元を描きたいという頼みだったので、ネクタイを緩めてワイシャツの上のボタンを外して引き受けた。


「女子って男子の喉元が気になるものなんですか?」


 土曜、サクラのヌードをデッサンしたあとは、最後に俺がモデルをやる流れになった。といっても脱いだのは上半身のみだったが。中でも、特に二人が注目していたのは首周りだった。


「そうねえ、目に付きやすいところでありながら、男女の違いを意識しやすいからかしら」

「なるほど……」


 **


「……という出来事があったんだ」

「へえ、部長もなかなか大胆なことするのねぇ。モデルのために脱いでくれ、だなんて」


 放課後に招かれたアオイの部屋でそんな話をする。今日はクラスや委員会が忙してくて、彼女は部活には来なかったのだ。


「例えば、ネクタイを緩めてボタンを外す仕草だけでも萌える女子は多いかもね」

「そうなのか?」


 俺は試しに実演してみせた。


「うーん、いいかも」


 そして、今度は自分もリボンを外して、ブラウスのボタンを外していく。


「男子だって、女子にこうされたらドキっとしない?」

「しないこともないけど、首元が見えるだけじゃなぁ」


 男子は人前でも平気で首元を見せたりするが、思えば女子が同じように首元を緩めるのをあまり見たことがない気がする。この動作がセクシーなものであるという自覚があるのだろうか。


「やっぱり、男の子はもっと見えないと駄目?」


 言いながら、次々とボタンを外していく。今日はキャミソールは着ていないようだ。いや、それどころか……


「おい、ノーブラで学校に行ってたのかよ」

「この前の土曜はお預けしちゃったから、早めに見せてあげたいなって……んっ、冷たい」


 誘われるように、ブラウスの中に指を入れてしまった。そう、この前は純粋にデッサンを行っただけで、性的な行為は一切行わなかったのだ。


「さすがにこっちは穿いてたか」


 ベッドに横たえてスカートをめくる。薄いグレーのショーツが見えた。


「でも、スパッツ無しで学校に行ったのは夏休みの登校日以来かも」

「誰かに見られたらどうするんだ」


 実際、アオイのスカートは膝より下の長さなので、よほどのことが無い限りパンチラは無いだろうが、それでも心配してしまう。


「ふふ、見られたら妬いちゃう?」

「どうだろう。逆に燃えるかもな」


 ヌードモデルになって以来、アオイは大胆になっている気がする。サクラの前でも平然と裸になったのは少し驚いた。さすがに、他の男の前で脱ぐようなケースは想像しづらいが、例えば俺の描いた裸婦画であればどこかで公開してやりたいと思うときがある。


「ねえ、私も我慢できなくなってきちゃった」


 俺たちはキスを交わしながらお互いの服を脱がせ合い、体に指を這わせていく。冷たい指の感触が刺激となり、より激しくなってゆく。いつもより情熱的な彼女の想いに、俺は全力で応えるのであった。


 ***


「あなた達、この前はどういうデッサンをしたの?」


 俺とアオイ、サクラの3人で集まっているところに、ツバキ部長が声をかけてきた。


「ええと、どういうことですか?」

「……相談するのが聞こえてきたんだけど、ヌードを描いたって本当なの?」


 部長は周囲に人がいないことを確認しつつ、小声でそう尋ねてきた。そうか、この前の相談が聞こえてしまっていたのか。


「はい、他の部員には内緒にしておいてくださいね」


 俺がどうしようか迷っていると、サクラがまっさきに答えた。そしてスケッチブックを開き、アオイのヌードデッサンを見せる。


「あくまでも芸術ですから。それに、お互いの同意の上ですし」


 アオイが続ける。俺も、同様にスケッチブックを見せてやった。


「……うーん、真面目に描いているならいいけれど。風紀は乱さないようにね」


 部長は多少の動揺を見せたが、デッサンがごく真面目であることを確認すると受け入れたようだ。もっとも、俺が二人と肉体関係にある時点で風紀もなにもないのだが。


「せっかくですので、部長も参加しませんか?」

「えっ?! わ、私が?!」


 サクラの提案に対して、いつもクールな部長から聞いたこともないような声が出る。


「私なんか描いても面白くないわよ」

「そんなことないですって。私よりはスタイル良さそうですし」


 アオイが重ねる。確かに部長のスタイルは良い。武道や舞踊の経験があるとも聞いており、姿勢の良さや立ち振舞からも気品を感じさせる。美術部内でも、モデルとしては一番かも知れない。


「それに、モデルじゃなくて描くだけでも大丈夫なので」

「そうねぇ。……確かにデッサン自体には興味があるし、考えておくわ」


 部長は曖昧な返事を残してその場を後にした。いくら描き手としての参加であっても、場の空気で裸になる可能性を考慮したのだろうか。しかしヌードデッサンへの興味があるとわかったのは収穫である。ツバキ部長のヌード、ぜひ拝んでみたい。

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