第2話:下着選び

「お買い物ですか? いいですよアオイ先輩」


 1年生のサクラちゃんにお願いして、土曜日に買い物に付き合ってもらうことにした。服を選んでほしいと言って頼んだのだが、本命は下着である。


 サクラちゃんは1年生でありながら、そっち方面の経験は豊富だと聞いている。愛嬌のある性格、小柄だが出るところは出ている体。部内では男子のアピールを上手にかわしている。きっと、慣れてるんだろうなと思う。


 *


「先輩も照れ屋さんですね。下着を買いたいなら先に言ってくださいよ」


 ショッピングモールに入った私達は総合衣料店から見ることにしたのだが、私が真の目的を告げると、彼女の行きつけだという下着専門店へと案内された。


「ちょっと、こういうお店って高校生には早すぎない?」

「そんなことないですってー」


 発光するマネキンに着せられた色とりどりのランジェリーは、面積が小さいものや、光り輝いている(つまりマネキンの光を透過している=透明度が高い!)ものが少なくない。これを私が身につけるの?!


「先輩、好きな色とかってあります?」

「うーん、下着は青系が多いかな」


 妹のものと区別するという目的もあるのだが、アオイという名前に引きずられてか、いつの頃からか私はブルーやグリーンなどの寒色系の下着を身につけることが多くなった。


「それじゃ、こういうのはどうですか?」


 私に気を使ってか、比較的落ち着いたデザインのライトブルーの上下揃いを選んでくれたのだが……。


「ごめん、ちょっとサイズが大きいかも」


 私の胸のサイズは、人に聞かれたらBカップだと答えているが、実際はBだと少し余る。かと言ってAでは少しきついので、必要に応じてパッドを入れているくらいだ。選んでもらったブラは、私が普段付けているBよりもさらに大きく見える。


「ある程度は調整できるので大丈夫ですよ。フィッティングのプロの人もアドバイスしてくれますし」


 今まで、下着のアドバイスなんて母親からしか聞いたことがなかった。


 *


「どう、似合う?」


 試着室にサクラちゃんを入れて見てもらう。言われた通り、フィッターさんの調整でBカップのブラに、脇肉も含めてぴったりと収まった。


「よくお似合いですよ、先輩!」

「ありがとっ」


 思わず上機嫌な返事をしてしまう。鏡に写った姿を見ると、私が持っているどんなブラよりも似合っていると思う。


 勝負下着。言ってみれば男に見せるための下着で、さらに言えば脱ぐための下着。そんなものがあると知った時、私は心底バカバカしいと思った。でも、実際に身に付けてみてわかったのは、良い下着は自分自身の気分を高めるということだった。


 今までは、ブラを買うというのがなんとなく苦痛だった。女として成長していることを嫌でも実感してしまうから。私が誰かと恋愛したり、まして結婚して子供を生むなんて考えられなかった。そんな思いとは裏腹に成長を続ける(思ったほどには成長しなかったけど)胸を好奇の目から隠すため、見苦しくないようにという義務感で仕方なく付けるものだったのだ。


 でも、今日からは違う。より自分の体を美しく見せたいと思うようになった。服を着ているときも、脱いでいるときも。


 *


「……これ、透けるやつじゃん!」


 家に帰り、ショーツのほうをチェックしてようやく気づいた。着用した状態で正面から見ると、クロッチの上にある台形の部分が半透明のレースになっており、少しだが下の毛が透けてしまう!


「ああ、それってそういうやつですよ」


 サクラちゃんに聞いてみたらあっさり肯定されてしまった。


「ヘアは見えても具は見えませんから。気になるなら私みたいにツルツルにしちゃってもいいし」


 事もなげにそう言う彼女に私は絶句してしまった。


「だいたいですね、男の人の前でパンツを見せるってことは、脱ぐ前提みたいなものじゃないですか」

「た、確かに……」

「どうせ学校に着ていくわけじゃないでしょうし、なんなら見せパンとかでガードできますからね」


 *


 試しに、風呂上がりに穿いてみることにした。確かに透けるが、それほどエッチなわけでもない。ギリギリで清楚な範囲内、だと思う。


「うーん、さすがに恥ずかしいから、とりあえず上半身のみのモデルってことにしようかな」


 鏡の前でポーズをとりながら、改めて決意を新たにするのであった。

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