第3話:二人きりのデッサン ♥
「今度の土曜日、うちに誰もいないから」
部活帰りに、突然アオイは俺にそう言った。
「ん、なんの話?」
「ほら、……モデルをするって約束したじゃん」
「ああ、あれガチでマジだったの?」
いくら幼馴染の関係で、ともに芸術を趣味とするものだからといって、高校生の女子が男子の前でヌード……裸を見せるものだろうか?
「私はちゃんと"約束"したし、アキも断らなかったでしょ」
確かに、その通りだ。断らなかったというよりも勢いでまくし立てられたので何も言えなかったというのが正しいと思うのだが。
「ただし、上半身だけだからね!」
それだけ言い残すと、アオイは家まで走って行った。
*
「上半身、ねぇ……」
自室のベッドに寝っ転がりながら、改めてアオイの発言を振り返る。素直に受け取れば、彼女は俺に裸の胸を晒すことになる。あるいは背中だけかも知れないが、いずれにしても相当の覚悟だと思われる。
強がって「お前のおっぱいなんて絵にならねーよ」という言葉が喉の奥まで出かかったが、見たいか見たくないかで言えば見たいに決まっている。消去法とはいえ、一番好きというか「付き合えそうな」女子であり、今まで何度もそのような妄想はしてきた。
記憶の範囲では、アオイがブラジャーを付けるようになったのは中1の2学期からだったはずだ。男女混合の体育祭の時、体操服の背中から透けるストラップにドキドキしたのを思い出す。本人はたまに胸の小ささを自虐したりはするものの、あの頃よりはずっと女らしく育っていることだろう。
アオイの部屋に招かれた俺は、きっと他愛もない会話でお茶を濁す。適当な頃合で……いや、俺のほうから切り出すべきだな。ともかくモデルの時間が訪れると、彼女は制服のブレザーを脱いでハンガーにかける。続いてリボンタイを外して、ブラウスをためらいがちに脱いでいく。そして最後にブラジャーを外すと、柔らかな双丘とピンク色の先端が……。
**
土曜日、俺の妄想はほぼ実現した。なぜか学校もないのに制服姿で出迎えてくれた彼女は、わざわざ俺の目の前でブレザーとブラウスを脱いでいった。
「俺、ちょっと後ろ向いていようか?」
「大丈夫!」
妄想と違ったのは、ブラウスの下はブラジャーではなく、薄いピンクのキャミソールだったことだ。キャミソールとはいえ、ブラカップが付いているタイプなのでノーブラでも問題ないようだ。
「下着の跡、ないほうがいいでしょ?」
「あ、ああ……」
そうか、ブラジャーは跡が残るというのを考えていなかった。彼女は少し迷った末、俺に背中を向けてキャミを脱いでいった。裸の背中が美しい。
「……」
俺に背を向けたまま、彼女は両手で肩をつかんだ。そしてゆっくりと、交差させた両手で胸を隠したままこちらに向き直る。伏せた顔は真っ赤になっている。
「なあ、無理しなくてもいいんだぞ」
「……ごめん」
*
結局、その日は彼女の背中をデッサンした。どうせならスカートも脱いでほしいとダメ元で頼んだら、意外にも素直にOKしてくれた。もっとも、予想通り下にはスパッツを穿いていたのだが。
「お疲れさま、終わったよ」
ふぅ~、という息とともに力を脱いた彼女が、振り向こうとして慌てて動きを止める。そのまま振り向いたら裸の胸が見えてしまうから(少し期待していたのだが)。彼女は背を向けたまま、ベッドの上に放り出していたキャミを着て、改めて俺の蕎麦に来た。
「へえ、上手に描けてるじゃない」
背中というのは地味なテーマのようだが、背筋や肩甲骨の凹凸など、意外に描くべき部分は多い。それに、女性らしいボディラインをより意識するのは、正面からよりもむしろ背面からだと思う。
「できれば、今度は別の角度から書いてみたいな」
「うん、善処するね」
「なんだよその政治家みたいな言い方」
そして俺たちは笑い合う。いつものような光景。違うのは、アオイの上半身がキャミ一枚ということだが。
「……ねえ、ちょっとドアの外に出ていてくれる?」
「どうかした?」
「ちょっと、見せたいものがあって」
言われたとおりに外に出ることにする。なんだろう。サプライズでオールヌードでも見せてくれたりするのだろうか? 思いもよらぬ申し出に、俺は期待と興奮で待つことにした。
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