10話 愚者は経験に学ぶ
『10話 愚者は経験に学ぶ』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。
この結果として生まれるのが功罪だ。
歴史に学んだ賢者は、経験に学びそれを覆すことを苦手とする。
100年、1000年単位で間違いが正されることなく歴史が紡がれてしまう。
それを覆すことができるのは、経験に学んだ愚者でありながら天から才能を与えられた異端者だけだ。
研究のために墓を掘り返し葬儀屋を買収し大量の死体を手に入れた人物がいた。
修道士ながらそれでも世界の真実を主張し処刑台に送られた人物がいた。
教義に違反すると知りながら禁断の研究に手を出し教団に粛清された人物がいた。
きっと、それは賢い選択肢ではない。
愚かなことだ。
その証拠に、幸せとは言えない最期を迎えた者も少なくない。
でも、その人物こそが人類を功罪と言う枷から解放し足を進めさせるきっかけになっているのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
見覚えのある天井だ。
あぁ、そういえば昨日家に帰って来てたんだっけ。
窓の外を見れば既に朝日が昇っている。
私はいつの間にか寝落ちしてしまっていたらしい。
意識こそしていなかったが、それなりに疲労も溜まっていたのだろう。
昨日だけで4人だもんな、新記録だ。
殺した相手としても、概ね文句のないメンツだし。
まぁ、マスコットを1人として数えていいのかは疑問の余地ありだが。
別に何人殺したからと言って何かあるわけでもない。
そこらへんの動物を殺したのならともかく、マスコットの殺害なんて人間よりよほど難易度も高いしカウントしてもいいだろう。
所詮、自己満足の世界だ。
左腕に刻まれた傷跡を陽の光に照らし、指でそっとなぞる。
大多数はもう記憶にも残っていないただの作業だった。
ヴィランに、マスコット。
久しぶりに殺したと言う実感があった。
初めて父を殺した時の感動があった。
後は……魔法少女、かな?
あの時殺せなかったのは勿体無かった。
それと同時に、楽しみをとっておけたのはファインプレイだったとも思う。
いつか来るであろうその時、それが今から楽しみで仕方ない。
しかし、もう朝か。
夜の内に警察なり魔法少女なりが家に乗り込んでくると予想していたんだけどな。
当てが外れた。
だから、一応起きておくつもりだった訳だし。
まぁ、結局寝ちゃってたんだけど。
自分の部屋だからって無駄にリラックスしてしまったのかもしれない。
今回は確実に目撃者がいた。
それも、魔法少女だ。
警察に情報が渡らないなんてことあるはずもなく、ましてや連携が取れないなんて事も無いだろう。
だから、遠からず見つかると思っていたのだ。
昨日の夜か、遅くとも今日の朝までには。
それが何事もなく自宅のベットで就寝、気持ちの良い朝の目覚めを迎えた。
意外と、そう簡単な話でも無かったのかもしれない。
よく考えてみれば、あの魔法少女に顔こそ見られはしたがそれだけ。
個人を特定されるような情報は何もない。
名前も、
住んでいた場所も、
行動範囲も、
私の顔だって、写真を撮られた訳じゃない。
ただ見られただけ。
魔法少女以外は私の顔を知らないのだ。
周辺を探せば防犯カメラに写っているだろう。
でも、それを私かどうか判断できるのはあの魔法少女だけだ。
それって、結構時間がかかるのかもしれない。
遠からず指名手配はされるだろう。
そうすれば通報は行く。
そこで初めて私個人と犯人がイコールで結ばれるのかもしれない。
警察がどうやって捜査するのかは知らない。
ただ、意外と余裕があったのだろう。
どのみちそれほど長くはないはずだけど。
こんこん、
ドアがノックされた。
思考の海に沈んでいた意識が表層にまで引き上げられる。
多分、お母さんだろう。
「どうしたの?」
「! あ、あの……。お弁当作って置いておくから」
お弁当?
なんで?
あ、そう言うことか。
今日は平日だっけ。
ここしばらく曜日なんて気にせず暮らしていたから、気づかなかった。
「そういえば今日学校だっけ?」
「!? 学校、行くの?」
「あれ? 休みだった?」
「うんん、違うわ。……そう。頑張ってね、七音」
「? うん」
階段を降りていく足音が聞こえる。
心なしか足取りが軽そうだ。
なんか反応がおかしかった気がするが、どうしたのだろうか?
学校はあるって事で良いんだよね?
お母さんが変な反応するから、今日は休みだったのかと思った。
曜日感覚も確実におかしくなってるし。
時計を見ると、10時過ぎだった。
あぁ、なるほど。
こりゃお母さんも微妙な反応になる訳だ。
今から行くとしても、思いっきり遅刻である。
この時間までベットでゴロゴロしてたら、そりゃ行かないと思われても仕方ないか。
昨日まで無断でサボってた訳だし。
でも、せっかくお弁当作ってくれたみたいだし。
それを家で食べるのも違うだろう。
弁当っていうのは外出先で食べるものだ。
久しぶりの学校、か。
そういえば私ずっとサボってた訳だけど、退学とかになってたりはしないのだろうか?
止められなかったってことは多分大丈夫なんだと思うけど。
まぁ、退学になってたらその時はその時だ。
せっかく戻ってきたんだし。
一応、ちょっとぐらい授業を受けてみても良いだろう。
家に帰ってきたのと同じ。
これが最後だ。
そう思えば、退屈で仕方なかった学校生活もちょっとはマシに思えるのだから不思議だ。
それに、私の偉大なる先人達。
歴史の教科書に載るような人は、誰もがぶっ飛んでいて欲望に忠実だ。
私も見習わなければ、そして越えなければ。
毎日受けると言うのは退屈極まりない。
でもまぁ、たまに受けるのはなかなか乙なものかもしれない。
過去の思い出が美化されてるだけかも知れないが。
ヴィランも殺したことだし、ランクアップするのもいい。
これまで適当な相手を殺していたが、これからは事前にターゲットを決めるのだ。
例えば、今日授業で名前の出た人間を殺しに行くとか。
どうせ遠からず指名手配されるんだ。
その前に、身バレ覚悟で有名人に特攻する。
思い付きだけど、結構ありかもしれない。
歴史の人物は流石に生きてないけど。
例えば国語だったら文章の作者とか、社会だと政治系?、理科だとなんかコラム的なのに最新研究的なのも載ってた気がする。
誰も見つからなかったら、仕方がない。
……先生で、いっか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます