3話 魔法少女シリアル☆キラー
『3話 魔法少女シリアル☆キラー』
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あの言葉には続きがあるらしい。
「殺人はその数によって神聖化させられる」
つまりこの言葉は殺人を正当化するような物ではなく、どちらかといえば戦争での殺人を否定する内容だった訳だ。
英雄とはただの人殺しである、と。
現代では真逆の意味で使用されることも散見するが、それこそが殺人が神聖化された結果なのだろう。
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今までの自分とは比べ物にならないほどの力、それを実感する。
私はマスコットと契約し、魔法少女になった。
やはり似合わないことをしたと思う。
魔法少女なんてのはかつての英雄たちと同じ、暴力を使いながら正義を名乗る側の存在だ。
湧き出てくる力、その源を思うと何処かもどかしくはある。
しかし、力は力だ。
要は使い方であり、どう使うかは私次第。
マスコットの目を騙くらかしただけではない。
神様が認めてくれた事でもある。
それならば、清く英雄を名乗って好きにすると言うのも私に与えられた権利なのではなかろうか。
さて、素晴らしい力をくれた事だし、ひとまずマスコットとの契約は果たしてあげよう。
英雄にしても、悪魔にしても、それは絶対。
まずはあの女の子の事を助ける、全てはそれからだ。
「その娘の事、離して貰ってもいいかな?」
「ん? あらあら、魔法少女がもう一匹。どこから来たのかしら」
「さぁ?」
私は何をするでも無く、ヴィランにただ声をかけた。
不意打ちする気にはなれない。
と言うか、このタイミングでは不意打ちにはならないだろう。
どこかのマスコットのせいで散々目立ってしまった。
直前までめっちゃ見られてたし、不意をつけると思って下手なことすれば痛い目に遭うのがオチだ。
このヴィランも、今気付きました見たいな下手な芝居しやがって。
そもそも、私は魔法少女になったのだ。
これまでのやり方とは趣向を変えるべきだろう。
暗殺ではなく、戦闘。
魔法少女の得意分野もどちらかといえばそっちのはずだしね。
ちょっと構えてみる。
格闘技なんて習ったこともないので見様見真似だ。
空手か、ボクシングか、もしかしたらMMAかもしれない。
頭の奥底、非常に曖昧な記憶だ。
しかし、なるほど。
やって見ればなかなか、理に叶った物らしい。
少なくとも直立から動くよりは早く動ける気がする。
「今なら見逃してあげてもいいわよ」
「いいや、」
誘っているのが見え見えだ。
視線どころか、殺気すら誤魔化せていない。
背中を見せた瞬間ズドン、だな。
そんな演技に騙される訳ないだろ。
疑似餌に掛かる魚じゃ無いんだからさ。
「あら、そう。……残念、ね」
突然、ヴィランの姿がブレた。
こりゃ変身前なら見えなかったな。
ナイフで殺そうなんて、自惚れが過ぎていたらしい。
そりゃ演技も雑になる訳だ。
まぁ、でもそれだけだ。
今の私は魔法少女なのだから。
しっかり見えてる。
そもそも、誘っていたのは私も同じだ。
敵の前で悠長に構えの確認なんかして、人のことを言えないぐらいあからさま。
でも、このヴィランにはそれぐらいがちょうどいいかなって。
実際、疑似餌に掛かって釣られたんだから文句を言われる筋合いはない。
「貴女の事は魔法少女になる前から気づいていたわよ。可哀想な新人ちゃん」
「残念、ハズレ」
「……あら?」
スピードこそ早かったが、それだけ。
狙いもまともに定められてない。
少し横にずれただけで空振り、しかもそれに気づいてないときた。
自分の動きに動体視力が追いついて無いのか?
論外だな。
それで、まともに戦える訳がない。
このヴィラン、大したことないな。
それにやられる魔法少女も。
能力ばっかり強くてそれ以外がお粗末なのか。
まぁ、それも当然か。
攻撃の方法を工夫をするより、ただ単純に圧倒的な威力で攻撃する方が強い。
防ぎ方を工夫するより、素の防御を上げて受け切る方が強い。
そう言う世界にいるのだ。
普通の人間とは、そもそも根本が違うのだろう。
それにしたって……、とは思うけどね。
「……あなた、何をしたの」
「単純に避けただけだけど?」
「有りえない」
「いや、有りえないって……。私がただの人ならともかく、魔法少女なんだしおかしくもなんともないでしょ?」
「魔法少女になったばかりの新人に私の技が見破られるなんて。そんなことあっていいはず、ない!」
変わらず、速いだけの攻撃だ。
学ばない。
と言うか、言葉でタイミングを教えてるせいでより酷い。
さっきの攻撃は一応不意を突こうという努力はあったのに。
それすらない。
これなら変身する前の私でも避けれる。
力はあるのに、残念な奴……
間を置くことなく攻撃し続けられる持久力は評価できるが、それだけに勿体無い。
自慢の速度もだんだん速度落ちて来てるし。
ブンブンと、辺りを飛び回る小蝿みたいで鬱陶しくなってきた。
すれ違いざま、横っ腹を蹴飛ばしてやる。
思ったよりもグニュッといった。
こりゃ、紙装甲って奴だな。
装甲を落としてスピードを上げる。
なるほど、戦法として間違っちゃいないと思う。
でも、せっかくのスピードを生かしきれてない時点でね。
何も考えずに殴るだけなんて、それこそ目にも止まらぬ速さでなければ成立しない。
人対ヴィランのような根本的な差がある相手ならいざ知らず、同じヴィランや魔法少女相手にそれは通用しないと思う。
まぁ、倒れてる女の子には通用しちゃったっぽいけど。
これ以上はもう何も見られないかな。
魔法少女を1人倒してる以上、何か他に隠し球でもあるのかと思っていたのだが。
私のデビュー戦だと言うのに、ガッカリだ。
「何か言い残す事はある?」
「私が、こんな魔法少女になったばかりの小娘に負けるなんて。そんなの……」
「そればっかりか、」
新人新人、って……
そのお粗末さを見るに、お前より私の方が経験豊富だ。
多分だけど。
私は近づく。
歩いて。
ゆっくりと。
ヴィランはびびって腰を引きずる。
が、それだけ。
一発蹴りを入れられただけでもう立てないらしい。
確かに装甲は薄かったが、立てないほどじゃ無いと思う。
スピード特化の弊害だろう。
ダメージを負う事に慣れてないのだ。
ただでさえ紙装甲なのに、さらに心まで弱いのか。
どうしようもないな。
殺すつもりで、拳を突き出す。
さっきの感覚なら体を貫くとは行かなくても、少なくとも内臓は潰せるはず。
でも、ヴィランを殴り飛ばしただけで止めには至らない。
なるほど、これが魔法少女の不殺ね。
面倒だ。
それに、無理やり動きを制御されてるみたいで気持ちが悪い。
だが、セーフティーとしては中々に優秀らしい。
なんだかんだありつつ、未成年に魔法少女なんて力が渡されるのを政府が許してる根本がこれなのだろう。
まぁ、それ以外にヴィランへの対抗手段が少ないと言うのもあるとは思うが。
魔法少女は殺しは御法度。
このまま捕まえて、それでおしまい。
そのあとは警察とマスコットが適当に上手くやるらしい。
そんなのつまらないよね?
せっかくの獲物、横で見てるだけのこいつに譲ってやるのは癪だ。
それに、優位に立って趣味が出てくるのは人間の性。
あのマスコット、旧時代のやり方で私を魔法少女にした訳だし。
どうせ面倒な事になる。
ならば、私がここでどう動こうが全部一緒だ。
だから……
「「「え?」」」
ヴィランの目の前で変身を解除した。
いくつかの声が重なった。
ヴィランと、他はマスコットと魔法少女だろうか?
こりゃいいな。
分かりやすく隙を晒してくれた。
しかも、全員。
カッターを倒れたままのヴィランの首に突き刺し、
逆の手でマスコットの方に投擲して牽制、
そのままもう一本で動きの止まったマスコットに止めを刺す、
我ながら上手くいった。
楽でいいな。
本当は他にもプランを用意してたんだが、敵の前で隙を晒すなんてバカばかりだ。
やっぱり私に正面きっての戦闘は似合わないらしい。
怠いし。
あと、隙を見るとどうしてもそこで終わらせたくなっちゃう。
「さて、君は何か言い残すことはある?」
ボロボロの魔法少女に問いかける。
しかし、ただ震えるだけ。
こちらを見ないどころか声すら上げない。
マスコットとの契約通り一度ヴィランからは助けてあげた。
そこから先はどうしようと契約の範囲外、だよね?
内容を確認しようにも、その相手はもうこの世には居ないみたいだし……
「沈黙が答えとは、粋だね」
ヴィランと同じように、首に刃を突き立てる。
が、刺さらなかった。
逆にカッターが折れる始末だ。
弾かれた?
そういえば、この娘は丈夫だったか。
傷だらけではあるが、逆に言えば傷だらけになっても生きているってことだ。
ヴィランは別に殺しNGじゃない。
あのヴィラン……もしかして魔法少女をいたぶって楽しんでた訳じゃなく、単純に殺せてなかっただけなのか?
そう言えばしぶといとかなんとか言ってた気がする。
装甲だけじゃなくて攻撃力まで削るとか、何がしたいんだか。
後一本あるが……
どのみち、カッターじゃこの娘は無理だな。
ヴィランとは違うらしい。
はぁ、せめてナイフでも買っておけばよかった。
「「〇〇〜〜!!」」
誰かを呼ぶ声が聞こえる。
結構近いな。
表情の変化を見る限り、この魔法少女の仲間か。
複数人、最低でも2人か。
このヴィランのように容易い相手とも限らない。
遭遇するのは無しだな。
窒息させてるような時間はない。
生身のままこの魔法少女の首を折ろうなんてのは不可能。
魔法少女に変身しちゃったら殺せない。
……手詰まりだな。
どうやら、いい子にしてれば幸運が訪れるって話。
あながち迷信でも無かったようだ。
仕方ない。
ヴィランとマスコット、1人と1匹だ。
戦果としては十分過ぎる。
左腕に傷を二本刻む。
これで『正正正正一』か、まだまだだな……
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