2話 僕と契約して…

『2話 僕と契約して…』

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それは、誰の言葉だったか。


「1人を殺せば犯罪者だが、100万人殺せば英雄になる」


ふと、想像してしまった。

100万人を殺した上で犯罪者として扱われる、そんな存在の事を。

一体どんな人物だったのだろうか。


そして、この少女はどちらの側の存在なのか……


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「僕と契約して、魔法少女になってよ!」


 明らかに人では無い存在。

 それが、私に向かって話しかけて来ている。

 現状をわかりやすく言えばこうなる。


 ……マジですか。


 小動物の様な、イタチ系統の何かを極端にデフォルメした見た目。

 その上、空を飛べるようなフォルムでも無いのに、何故かふわふわと宙に浮いている。

 ネオンのケバケバしい物とは違う、何処か淡い光を全身に纏ったファンシーな何か。


 人では無いどころか、まともな生物ですらなさそう。

 初見ならそんな感想を抱く事だろう。

 私はそれなりに見慣れてるのですぐに察しは付いたけど。


 魔法少女、ヴィランに続いて……今度はマスコット、か。


 マスコットは、魔法少女と共にヴィランと戦う存在だ。

 まぁ、魔法少女がいるんだから別に近くにいても何も可笑しくはない。

 可笑しくはないのだが、


 ただ、このマスコット。

 今、とてもじゃ無いが聞き流せない様なことを口走っていなかったか?

 魔法少女になって、とか何とか。


 マスコットと目が合う。

 少し横にズレるも、その視線が追って来る。

 ……本気で言ってる?


 まぁ、この場に居るのは私の他にはヴィランと魔法少女だけだし。

 消去法で考えて、私以外に言ったとは思えないけど。

 男の魔法少女なんてのも聞いた事無いし、実は青年に向かって言ってましたなんてウルトラCがある訳もなく。


 って、あれ?

 そう言えば、あの青年どこ行った?

 消えたんだが。


 いつの間にか逃げてたのか。

 気づかなかった。

 男の警戒心が云々と貶してしまったが、逃げ足だけは早かったらしい。


 いよいよ持ってあのマスコット、本当に私に言ってるらしい。

 私が魔法少女……、全く持って想像出来ない。

 そもそも正義の味方って柄じゃ無いし、このマスコット見る目が無いと思うわ。


 と言うか、どうしてくれよう。


 マスコットのせいで、ヴィランからの視線がめちゃくちゃ痛い。

 今まで私がただの人間だったから無視されていた訳で、魔法少女になるかもしれない相手を無視はしないだろう。

 余計なことを。


 これじゃ、不意をついて殺すのは無理。

 しかも、見逃される可能性も無くなったと言い切っていいレベルだ。

 勘弁してほしい。


 実は魔法少女もヴィランも全部衣装で、これは何かの撮影でしたってオチにならないだろうか?

 そう目の前の現実から逃避してしまいたい気分だ。

 しかし、この摩訶不思議なマスコットの存在がそんな訳ないだろと五感に訴えてくる。


 青年と同じように、初めから逃げるべきだったな。

 結果論だが、あのタイミングなら大した興味も引かず逃げられたみたいだし。

 ナカミを見たいと欲を出してしまった。


 上から目線で色々言っておいて、警戒心が薄いのは私の方だった。

 情けないことだ。

 どうやら私に選択肢は無いらしい。


「……え?」


 色々と思考を巡らせていると、気が付いたら真っ白な空間にいた。


 私が、ふわふわと浮いている。

 噂に聞く謎空間?

 魔法少女が変身時に移動するという。


 でも、私まだ魔法少女になると了承したつもりはないのだが。

 内心で受け入れたからって事?

 声にすら出してないのにとか、やり口が悪魔より悪どくないだろうか。


「お願い、魔法少女になってあの娘の事を助けて欲しい」


 いつの間にか目の前にマスコットがいた。

 同じくふわふわと浮いている。

 上も下も無いのか、中途半端な体勢だ。


 まぁ、向こうから見れば私がそう見えるのだろうけど。


「魔法少女になるのって、なんか色々大変なんじゃなかったっけ?」


 ファンシーな見た目こそしているが、その力は強力な物なのだ。

 ヴィラン以外にそれが向けられてしまえば、とんでもない被害が出るのは想像に難くない。

 一応セーフティーこそ掛かっているらしいが、それでも危険なのだ。


 初めは試験なんて無くて、マスコットが一方的にスカウトして魔法少女を作っていたらしい。

 しかし、法律面とか色々問題が出たらしく。

 さらに、一時は魔法少女と国が対立しかけたとか何とか。


 その結果、マスコットと国のお偉いさんの話し合いの末、魔法少女の試験が出来たらしい。

 素質を見る的な?

 それに合格して初めて魔法少女の候補生だ。


 あとは親の同意も必要だし、他にも面倒な手続きがいくつもある。

 そんな訳で、半ば公務員みたいな扱いなのだ。

 私がここで「はい」と言えば成れるような存在ではないはず。


 あ、あと魔法少女になれば一応お金も貰える。

 割に合うとは言えない様だが……

 公務員だし、魔法少女って元が慈善活動だし、そういう物らしい。


 まぁ、もちろん受験や就職には有利だ。

 魔法少女を一定期間行えばどこの大学にも入れるし、学歴なんかなくてもほとんどの企業から内定が貰えるとか。

 一体何人がその恩恵に預かれたのかは知らないけど。


 全部授業やら何処かで聞き齧った話だ。

 あくまで噂レベルのものもあった気がするが、どれがそうとか詳しい事は覚えてない。

 私には縁のない話だったはずなのだから。


「私、魔法少女の試験とか受けた覚えないんだけど」


「……緊急事態だから、僕が何とかする」


「何とかねぇ」


「だから、頼むよ! あの娘の事を助けて!!」


 やっぱり。

 分かってはいたが、完全にこのマスコットの独断らしい。

 完全に旧時代のやり方、面倒ごとの気配しかしない。


 と言うか、あの女の子に肩入れしすぎなんじゃないの?


 そもそも、魔法少女が死ぬのなんて日常茶飯事。

 別にそこまで珍しくもないでしょ?

 それぐらい危険な仕事で、実際毎月一日の国葬で何人も名前が読み上げられるぐらいには亡くなっているのだから。


 せめて、マスコットの方だけは冷静でないと。

 相手が思春期の女の子なんだからさ。

 それに同情して規則破りなんて、軽い処分で済むとは思えないけれど。


 まぁ、でも……


 私は、魔法少女なんてキャラじゃない。

 理解はしている。

 そもそも試験が性に合わないし、学校のテストでいい点なんてとった試しが無い。


 だから、その力に興味は有ってもその先に進むつもりはなかった。

 そもそも、今までの自分の行動を振り返るにとても素質なんて持ち合わせているとは思えないし。

 まぁ、マスコットが私に助けを求めてくるぐらいには擬態できてるとも言えるが。


 でも、簡単になれるって言うなら……

 なってもいいかなって。

 つまりはヴィラン狩り放題って事だよね?


 不殺は怠い。

 でも、力は力だ。

 要は使い方。


「いいよ」


「無茶を言ってるのは分かってるけど……。って、え?」


「だから、いいよ。魔法少女になってあげる」


「いいの?」


「もちろん。魔法少女になって、あの娘のこと助けてあげればいいんでしょ?」


「うん!」


 別にあの女の子を助けたいとは思わない。

 と言うか、魔法少女ならどうせ助けても遠からず死ぬ。

 そう思えてならない。


 魔法少女になる対価としてあの子のこと助ける、それだけ。

 今までと一緒だ。

 男を釣るために、似合わないことをしていたのと同じ。


 これは正当な取引だ。

 どうせヴィランは殺すつもりだったんだし、ついでに魔法少女になれるって言うんならコスパも十分。

 これは、美味い話だ。


 ヴィランをどうにかしなきゃ、自分の命も危ないんだ。

 これは、マスコットのせいでもあるが……

 そもそも、たったのカッター5本じゃ殺せてたか怪しい所あるしね。


 不意をつくのもいいけど、正面からってのもいい。

 今までの私じゃ無理だったことだ。

 どのみち、ヴィランには既に警戒はされているだろうから。


 いい子にしてれば幸運が訪れるなんてのは迷信らしい。

 いや、善悪の基準が人間とは違うのかも。

 私を善と見る神様ってことだ、なんて素敵な事だろう。


 あぁ、神様。

 私に力を与えるってことは、そう言うことと理解してよろしいな?


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