鳥が鳴いている
十戸
鳥が鳴いている
鳥が鳴いている。寝ても覚めても明けても暮れても、何をしていようがどこにいようが、ただ鳥が鳴いているということを考えてしまう、意識というものの上に覆いかぶさるようにして。いつまでも鳥が鳴いている、誰と話していても鳥が鳴いている。何かを読んでいても「鳥が鳴いている」。鳥が鳴いている、それは逃れようもなく追いかけてきた。けれどじっさいには、鳥など鳴いてはいなかった――聞こえるのはただ、目の前に拡がる現実というものの発する音ばかり、物音、人の声。もちろん、そのさなかに鳥の声が混じることもありはした。けれどそれはあくまでもときおりのこと、日常に紛れるほどのものであって、いつもいつも聞こえているわけではなかった。鳥が鳴いている。なぜ? わかりはしない、わかることなどあるとも思えなかった。いまもなお鳥が鳴いている、頭の奥底に拭い難く、ひとときも鳥が鳴いている離れずくり返し続けるたったひとつの言葉がある鳥が鳴いている意味を持ちながら鳥が鳴いている持たずそれがどのようなことなのかまるでわからずに鳥が鳴いている。
鳥が鳴いている 十戸 @dixporte
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます