ラストチャンス

 ドキドキする。


「ごめん、待った?」

「うちもいま来たとこやで〜。真美まみ、あけおめ〜」

「あ、あけましておめでとう!」

 元旦の深夜。

 うちでは、元旦だけ初詣ということで深夜の外出が許されている。

 いつもなら、中学生だからまだだめだと命じられている時間。近所の神社までとはいえ、外に出ることができる。

 一年に一度の特別な日だから高揚してるんだけど、少し緊張もしていて。

 それはなぜかというと。


「それにしても一年ぶりかぁ。大きなったなあ」


 こうして、可奈かなねえに会うことができるからだ。



 私は可奈のことが特別に好きだ。

 その気持ちに気づいたのは私が小学5年生、可奈が中学2年生の時だった。ずっと「年の離れた幼馴染」というそれはそれで特別な関係だったから、変に壊してしまいたくなくて、当時は気持ちを押し隠していた。ところが高校進学と同時に可奈が引っ越してしまってひどく後悔したのを覚えている。

 ただ幸い、こうして一年に一回、お正月には帰ってきてくれるし、会ってもくれる。神様はまだ私にチャンスを残してくれたと喜んだものだ。

 とはいえ、もう彼女も高校2年生。来年は二人とも受験で忙しいだろうし、再来年にはきっと都会の大学に行ってしまうだろう。そうなると帰って来る保証はない。私が彼女についていく手もあるけど……果たして、親が許してくれるかどうか。

 だから今年が実質ラストチャンスなのだ。

 なんとしても、今夜、気持ちを告白する。

 

「ほな初詣行こか」


 加奈が神社に向けて歩き出す。私も慌ててついて行って、横に並ぶ。街頭に照らされた横顔がきれいだと思う。髪も、一年のうちにすっかり伸びたみたいだ。ゆるくパーマがかかっていて、テーラードジャケットに似合って大人っぽい。対して、動きやすければいいやと適当に短くまとめている私の子供っぽさときたら!

 隣を歩くのが恥ずかしくなっていると、右手にそっと彼女の左手が添えられた。

 

「神社、人いっぱいやろ? はぐれたあかんからな」


 手を握り返すと、じんわりと温かくなってくる。暖冬とはいえ手が冷えないわけではない。優しいぬくもりだと思う。

 ……もしかしたら、本当はこういう緩やかな関係のほうがいいのかもしれない。自然に再会を喜べて、なんのためらいもなく手を繋げるような。そういった二人でいたほうが、一生、なんとなく心地よい間柄を続けられる気がする。

 けれど。私はもっと踏み込んだ関係を築きたいのだ。たとえその結果すべてが壊れてしまうとしても。そんな想像はもう何度としてきて、今だって不安で不安でしょうがない。

 それでも、これまでと違う二人になりたい。私に、彼女を独占させてほしいのだ。


「どうしたん? ずっと考えごとしとるみたいやけど」


 私は意を決して、口を開いた。


「あんな、かなねえ、お参りのあとで話があるんやけど――」


 ここの神様は恋愛の神様じゃなかった気がするけど、知ったことか。

 今日ばかりは強引にでも手助けしてもらう。

 繋いだ右手に、ぎゅっと力を込めた。

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