関西百合クロッキー

@nagarechan

……おもっ。

「……おもっ」


 胸元の圧迫感で目が覚めた。

 見ると、見慣れた顔の女がすうすうと寝息を立てている。

 また、アンタか。


「もー苦しいねんて、ちょっとどいて」


 女をベッドの端に追いやると、顔をしかめる。起こしてしまったかもしれないが、知ったことではない。もう朝なのだから起きてもいいだろう。

 この女は沙希さきという。半年前から同棲を始めた。

 一応、個人スペースが必要だろうとのことで各々寝室を持っているのだが、沙希は三度の飯より添い寝が好きらしく、ほぼ毎日のように私のベッドに侵入してくる。

 それだけなら可愛げがあるかもしれないが、この女、とにかく寝相が悪い。蹴る殴る、布団は奪う、今日のように私の胸を枕にするなど寝ている間はやりたい放題になってしまうのだ。

 そんなわけだから週に6日は添い寝を拒むのだが、沙希もしたたかなもので、どうしてもという時は私が寝付いた後に布団に侵入してくる。困った話である。

 

「ああ、はるかに拒まれた。寂しいなあ」


 沙希はむくりと起き上がると、シクシクと泣くふりをする。


「は? 拒んでへんし。単に寝苦しいからけただけやし」

「ええねんええねん分かっとる。もう遥はうちと一緒に寝てくれへんのやな」


 挑発するように手のひらを振る沙希。

 寝起きですこし機嫌が悪かったせいか、つい、乗っかってしまった。


「そ、そんなわけないやんか」


 少し声が震えた。


「ほななんで寝てくれへんの?」

「沙希の寝相があんまりやからやんか」

「そんなん愛の力でなんとかしてやぁ」


 できたらもうやってる。

 私だって、けっこう、寂しい夜を過ごしているのだ。


「ほらやっぱり寝たくないんやんかぁ。」


 黙りこくっていると彼女はふてくされたようにそんなことを言う。

 なんで朝からこんな態度を取られないといけないのだろう。悲しくなってくる。


「あのなぁ、うちかて寝たくないわけやないんやで。でもアンタがばたばた動くからあかんねん」

「うちのせいやって言うの?」


 せや、と口から出そうになるのをぐっとこらえて、寝起きの頭を動かす。

 彼女が動かないようにすれば、一緒に寝られるのだ。

 ……あ、そうだ。

 

「ほなこうしたらええんや」

「ふえっ!?」


 私は沙希を抱きしめると、そのまま布団に倒れ込む。

 彼女の四方に跳ねた髪が肌に触れて心地いい。


「こうやってギュって腕回したら、アンタ動かれへんやろ?」

「確かに」

「このまま寝たら、変に暴れへんやろうし、ずっとくっつけて安心よね……」

「そうかもしれへんけど、なんか緊張するなぁ、アハ」


 その緊張のせいか、沙希は動かなくなる。

 私も、じっと抱いたままの姿勢でいて、あえて動こうとは思わない。

 彼女の温かさを腕の中に感じる。

 これほど幸せなことは、他にないだろう。


「もうこのまま一生離さんからな。死ぬまで一緒や……」

「……重っ」

「は?」

 

 彼女の一言でそんな穏やかな時間がぶち壊されて、すっと気持ちが覚める。

 せっかく解決策を提示してあげたのに、なんて口ぶりだ。


「いやいや。一生離さへんなんて、愛が大きくて幸せですわ」

「な、ななっ……!!」

 

 冷静になってみると、今なにかずいぶん恥ずかしいことを言った気がして、途端に顔が熱くなってくる。

 思わず腕を解き放つと、沙希はベッドから降り立って、ぐっと背伸びをした。


「じゃあ昨日の残りのケーキでも食べてこようかな」

「……いや重っ」


 いくら何でも朝から食べるものじゃないだろう。

 マリーアントワネットだって朝は軽食で済ませたはずだ。知らんけど。


「昨日アホほどクリスマスケーキうて来たんはどこの誰やったかなあ?」

「だってアンタ、ケーキ好きやんか」

「好きゆーたって限度があるわ。あんなん、一日で食べきれるかい」

「たくさんいろんな種類があった方が喜んでくれるんちゃうかなとおもて……」

「……そう言われると弱いなあ」

「はあ。しゃーないから一緒に食べたるわ」

「いや、しゃーないって、元は遥が……」


 沙希に続いてベッドから降りると、愛しの彼女の肩を抱いて一緒に歩きだす。

 ケーキみたいに甘くて重い愛、上等だと思った。

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