第21話 対峙

「久しぶりだな、京」


 自信に満ち溢れたなぎの台詞。学生時代の時とは別人の様だ。

 そう言いながらこちらに歩いてくる。


「どうだ?ここが私の会社だ。見ろ、この景色。大都会を見渡せるぞ」


「その割に隣の商業ビルより低いよな」

 僕は悪態をついてみる。

 イトウさんは双眼鏡で隣のビルを見ている。


「だまれ、時期に追い越すさ。もうすぐだよ。

 ……所で、私と共にこの会社を大きくしてみないか?」

 なぎは突然僕に提案してくる。


 ……どう言う事だかよくわからない。


「昔の馴染みという事もあるが、お前がここまで来たその理由だよ。

 お前も持っているのだろう?例の物を」


「例の……?」


「こんな物だよ」

 なぎは僕に杖を渡す。


 この杖、見覚えがある。

 間違い無い、この杖は……。


「これは僕がみやに渡した杖?

 やはりお前が、みやを……!?」

 僕は怒りに任せ最も聞きたかった事を聞いた。


「この杖は彼女には勿体無い代物でね、少し借用しただけだ。

 私も実際に使うまで効果は分からなかったが、これさえあれば何でも願いが叶うのだよ。

 どうかね?私と共に来ないか?」


「ふざけるな!こんな物の為にみやを手にかけたのか!?願いが叶うだと?

 この杖でみやを生き返らせろ、と願えとでも言うのか?馬鹿にするな!」


 僕はそう言いながら杖をなぎの横に思い切り投げ捨てた。


 なぎは投げ飛ばされた杖を回収しながら、話を続ける。


「そうか、残念だ。お前とならやれると思ったのに。なら退場して貰おうか。この世からな」


 そして、なぎは後ろから何かを取り出す。

 辺りが暗い為はっきりとは見えないが、

 くすんだ金色の、持ち手に宝石の様な物のついた長い……剣だ。


「け、剣だと!?

 まさか、なぎの武器は!?」


「そう、この剣だ。随分とお世話になったよ、この武器には。また活躍して貰う事になるとはな」


 ナイフに盾、杖とくれば、よく考えてみれば残りは剣だ。何故気付かなかったんだろう。


 なぎは剣を構える。

 なぎは、本気で僕を斬るつもりだ。


 イトウさんを見ると、まだ双眼鏡で何処かを見ている。

「イトウさん!!

 僕は剣術も格闘も経験が無い!どうすればいい?」


 イトウさんは漸くはっと振り向き、状況を把握した様だが、何か様子がおかしい。


「京、すまない。私は行かなければならない所がある……これを渡しておく」


 イトウさんは盾を僕に渡し、屋上の隅へ移動。

 そのまま遠回りしてエレベーターへ乗り込み行ってしまう。


「え?

 ちょっと、待っ……そんな!?ここで!?」


 思わず声が出てしまう。

 裏切り、では無さそうだけどこの状況は明らかにマズイ……。


「とんだ仲間を持った物だな」

 なぎは薄笑いを浮かべながら僕に剣を振り下ろしてくる。


 間一髪盾で防ぎ難を逃れる。


「ほぅ……この剣で斬れない物があったとは。まだそんな物を隠していたんだな。しかし状況は変わらない様だ」


 なぎはそう言いながら僕に目掛けて何度も剣を振り下ろして来る。

 盾で防ぐのが精一杯だ。

 僕に向かって剣を振る方と、僕がなぎの剣を見て防ぐ方。どちらが有利なのか一目瞭然だ。


 どんどんと後ろに追い詰められていく。

 僕にはこの状況を打開する術が見えない。

 しかも僕の武器は小さなナイフ一本。


 盾で防ぎつつ何とかナイフを振るってみる。

 当然の様になぎに気付かれ、なぎは後ろへ大きく離れる。


「何だ京、お前も武器を持っていたんだな。騙し討ちしようとしたらしいが、安心したよ。そんな物で剣に勝てるとでも思うのか?

 お前とは長い付き合いだったがどうやらここでサヨナラの様だな」

 なぎは勝ちを確信してゆっくり近づいて来る。


「な、何か……何か手はないのか!」


 勝つ為の行動を頭をフル回転させて考える。そして昔読んだ事本に書いてあった戦術をうっすらと思い出した。

 勿論今迄やった事はないが一か八か試してみるしかないと思った。

 僕はなぎに向かってある程度加減しながら盾を投げる。


 なぎは思わずそれを受け取ってしまう。


 僕は盾を投げたと同時に走り出し、その隙になぎの懐に入ってなぎの下腹部をナイフで無我夢中で刺した。


「くっ、不覚をとった……か。しかしお前も連れて行く」


 なぎはよく分からない事を言いながらその場に倒れた。


「京、お前……見てくれ、これが俺の会社……だ。

 俺は……日本で有数の……会社の社長なんだ……ぜ」


「……」


「お、俺は、お前と……みやと……3人でこの会社を……」

 なぎは涙を流している。


「お前、もしかしてみやの事が……?

 だったら何故あんな事を……」


「お前達の……間に入りたかったんだよ……あの時は剣しか無かったが……この剣の話をして、みやに同じ提案をしたけど断られてね……。

 みやにフラれた怒りに任せて彼女を斬り、そして得た杖は何でも願いが叶う事がわかったが……人の心までは手に入らなかった……俺も……俺もあんな事はしたくなかった……。

 向こうで……3人でまた……一緒にやり直したいな、あの時の、子供の頃の様に……また、楽しく……」

 そこまで言うとなぎは力尽き、その身体はお金に変わってしまった。


「なぎ……」


 気付かぬうちに僕も涙を流している。

 みやに続いてもう一人馴染みを失ってしまった。しかも僕の手によって。


「これで……終わったのか……」


 辺りが静寂に包まれる。


 僕は暫く茫然としていた。

 何をすべきなのか判らない。

 大きく息を吸い、ある程度気分を落ち着かせ冷静になる。

 最近こう言うショックな事が多かったので、多少なりとも耐性がつき始めた様だ。


 そして一応僕はなぎが回収していた杖を回収する。


 そういえばこの杖、何でも願いが叶うとか言っていたな。

 どうやって使うのだろう。

 ブンブンと振ってみるが何も起こらない。


 念じてみるのか?

 試しに心の中で欲しい物を適当に念じながら振ってみる。


 するとなぎの会社のビルが崩れ始める。

 崩壊の早さが遅い為落下は無い。

 その崩壊もある程度の大きさにビルが縮んだ後、目の前に大きなプラモデルのランナーが幾つか現れた所で止まる。


「これは!」


 お台場にある巨大ロボットサイズのプラモデルだ。一度組み立ててみたかったんだ!


 会社の一部がこのプラモに化けたって事?

 どうやって持って帰ろう。


 いや、待て。この杖本当に何でも出来るのか?

 まさか人も生き返るのか?ならばみやも……。


 そんな事を考えながら杖を見ている時、自分の腕のキズに気付く。


 これは、まさかさっき斬られたのか……。

 かすり傷ではあるが、これは……。


「京ちゃん!」

 その時後ろから声が聞こえた。

 とても温かみのある、とても懐かしいテンションの低い女の声。


 後ろを振り向いてその主を確認しようとした時、僕の意識は遠退き身体はお金になりその場で崩れ落ちた。

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