第19話 進展

 更に3年の月日が流れた。


 大学卒業から5年。

 3年前のイトウさんの電話から全く進展も無いし、連絡も無い。

 僕なりにあの企業に詳しそうな友達に当たったりもしてみたが誰も詳しくは知らないし、知り合いで勤めていると言う話すら聞こえて来ない。


 いっそ単身で潜入してみるか、とも思ったが一流企業なだけあってセキュリティも万全で入れそうにも無い。僕の調査にも限界が来ていた。


 その日、いつもの様に残業が終わり家に帰る。

 今日はまだ木曜日。

 明日の仕事準備を終え、ちょっと早めに眠ろうとしていたその時、僕の携帯が鳴りだす。


 イトウさんだ。


「おい。今TV見ろよ、はやく!」


 仕方無くTVをつける。

 あの企業の番組だ。


 イトウさんが続けて話す。

「あの企業の社長知ってるか?高橋でも平岡でも無い。それは……」


 TVに社長として紹介されて映っているのは……


「え?……」


 なぎだった。学生時代から知っている、アイツだ。

 TVでは「噂の20代大企業の社長」とのテロップも出ている。


「漸く自ら犯人が名乗り出て来たな。明日早速カチコミをかけるぞ」


「ええっ!突然過ぎるよ!?明日は仕事だよ」

 驚く僕を関係なく話を続ける。


「仕事なんてサボれ。幼馴染の仇と仕事どっちが大事なんだ?既に私の方で色々準備もしてある。明日1800に、あの企業の前に集合な。

 勿論あのナイフも忘れるなよ」


 あまりの剣幕に僕は返事しか出来なかった。


「それと……覚悟は出来てる?」


「……何の?」


「……明日、なぎに会ったら、京はどうするつもりなんだ?」


「どうって、そりゃあ……」


「まさか話し合いで何とかしようとか言わないよな?」


「えっ!」


「…………」


 暫くの沈黙の後、イトウさんが口を開いた。


「なぎは少なくとも大学の先生達、みやさん、そしてあの企業の数人を手にかけている。人殺しを簡単に行う様な奴に、話し合いで解決すると思うのか?」


「じゃあどうすれば……」


「京がそのナイフでヤツを倒すんだ」


「え?なぎは僕の友達なんだよ」


「躊躇いはあるだろうが、なぎは既に殺人者でもある。あのナイフがその人に関する記憶まで消すのなら、ヤツを倒せばもしかすると全てが元に戻る可能性もある」


「…………。

 確かにそうかもしれないけど、それは僕になぎを殺せと言う事だよね。僕も人殺しになってしまう」


「なら他の人が犠牲になってもいいと言うのか?京の中ではみやさんの話もその程度の物なのか?

 彼女の様に自分に関する記憶ごと消される人が増えると言う事だぞ。

 なぎを止めるんだ。それはナイフを所持している京にしか出来ない。何の為に2人でここまでやって来たんだ?」


「ぼ、僕は……」


 なぎのやって来た事は到底許されることでは無い。しかし幼馴染である、なぎを僕が手にかけるのもどうなのか。

 自分の中でも理解出来ている様で理解出来ない。


「……明日まで時間はある。辛い選択になるだろうが暫く独りで考えを整理してみる事だ。そして自分が何を成さなきゃならないのかを、な。明日、待ってるから」


 そう言うとイトウさんは電話を切った。


 その日、結局僕は朝まで他の解決方法が無いのか、自分が何をすべきなのかをずっと考え、

 そして、答えを出せないまま夜が明けた……。

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