第18話 久しぶりの再会

 あれから2年の時が流れた。

 僕は社会人として、みやと行く筈だった職場で毎日働いている。

 部署は違えど同じ会社で働ける偶然を喜んでいたのだけど、その事はもう誰も知らない。


 毎日仕事をして寝るために家に帰るの繰り返し。

 あれからイトウさんからの連絡も、みやの話の進展も全く無い。


 僕はあのナイフを、イトウさんはあのお盆(盾?)を各々持ち別れたままだ。


 先日、久しぶりに佐藤から連絡があった。

 いつもの山田を含め3人で久しぶりに逢わないかという提案だった。

 卒業後、皆住んでいる所がバラバラなので、たまたま山田の出張にあわせて皆集まろうと言う話らしい。


 卒業式の時、変な別れ方してしまったままだったので声をかけられた時は驚いたが喜んで返事をした。


 その約束に間に合うよう、今待ち合わせ場所に向かっている所だ。


 待ち合わせた飲み屋に入ると既に山田と佐藤が飲んでいる。約束時間前なのに既に出来上がっている。


「おぅ、お疲れー。久しぶりだな?まだ相変わらず独り身か?」


 一言目からそれか。山田は相変わらずだ。


「何か卒業式の時本気で彼女探してたんだって?何で俺も誘ってれなかったかなー?かなしいぜ」

 佐藤も元気そうだ。既に山田に色々吹き込まれているらしい。


「皆元気そうで何よりだなー。仕事とか調子はどう?」


 山田は国内出張がメインの仕事に就いているらしい。週末や次の週の予定も読めない程の出張頻度の職場らしい。


 佐藤は営業職。いつも接待の飲み会で夜遅くまで頑張っているらしい。


 僕も仕事はただの事務みたいな物だから皆に比べればつまらなく聞こえてしまう。


「どんな職でもいいんだよ、エラく無くても真面目に頑張っていこうや」

 山田の台詞に佐藤も相槌を打つ。


 その時たまたま飲み屋のTVで大手企業のニュースをやっている。

 新商品を開発した事で社長のコメントまで放送している。


「ほら、見ろよあのニュース。最近話題になってる企業の新商品だってよ。

 社長の平岡って人、かなりのやり手みたいだよな。早くあんな人みたいに稼げるようになりたいよなー、そしたら毎日ウハウハなのに……」

 山田が社長を褒めちぎっているが、少し気になる事を言っている。


「あの会社なら僕も知ってる、と言うより社長もTVによく出てるから知ってるけど高橋って名前じゃなかった?」


「高橋?あの会社の社長は昔から平岡さんだよ。何処の会社と間違えてるんだ?常識だぞ。前TVも見てないのか?」


 佐藤に指摘されながら佐藤は続ける。


「ほら、あのニュースでも出てるだろ?社長の平岡って。今の日本であの社長知らないのお前くらいだよ」


 …………。


 おかしい。

 確かにあんな大企業の社長の名前間違えるはずが無い。TVにもよく出ているので僕でも知っている。

 社長の名前は間違い無く高橋だったはずだ。

 もし社長が交代したのならそれだけでも大きなニュースになるはずだ。それ程に大きな企業なのだ。


 何故僕だけの知識が周りと違うのかと考える事もなく一つの結論が思い浮かぶ。


「……あの会社の誰かだ」


 しかし相手は国内最大手の大企業。僕が転職して潜入するにも流石に無理だ。


 山田達の飲み会も、山田が企画したにもかからわず明日も朝から別の場所に出張と言う事で早めに終わる。


 帰り道、とても気になるので確かめようとイトウさんに連絡を取ろうと携帯電話を取り出すと着信履歴が。


 イトウさんだ。

 同じ番組をみていたのだろう。すぐに返信する。


「京か、久しぶりだな。取り敢えず無事なようで安心した」


 どうやら僕が電話取れなかったから心配してくれていたらしい。


「ありがとう。……で、さっきTVでやってたニュースの話だよね?」

 僕の問いかけにイトウさんは少し驚いたようだ。


「そうか、京も気付いていたか。

 社長の名前、高橋からいつ変わった?私もたまたまTVを見ていたら何処のニュースでも同じネタをやっていてね。もしやと思って連絡した」


「僕もその事で連絡しようとしていた。

 あの企業に犯人が?」


「犯人かどうかはわからないけど、関係ある奴がいる事は間違いないな」


「しかし、僕達ではあの企業入る事すら出来そうに無い。どうしようか」


 僕の問いにイトウさんは、

「大丈夫。アタシが何とかする。京は怪しい人物を調べといて。判らないかも知れないかもしれないけど、何らかの手がかりがあるかもしれない。じゃあ気を付けてな。消えるなよ、じゃあ……」


「ちょ……ちょっと待って。久しぶりに話し出来て嬉しかったよ。イトウさんも気を付けてね。それじゃあおやすみなさい」


「バ……何が嬉しいだ、アタシはただ必要な連絡しかしてないつもりだよ、じゃあな!」


 イトウさんは電話を切ってしまった。

 珍しく、柄にも無く照れていた様だ。


 イトウさんかぁ。粗暴だけど確かにそこそこ綺麗だよなぁ。

 でも僕にはみやしかいない!揺らぐことは無い!

 と思いながらその日は眠りについた。



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