第17話 謎の道具
しかし判らないなー、このお盆の使い方。
「どう思う、このお盆。これ、子供とかならどう遊ぶかな?」
イトウさんの問いかけに
「子供なら投げたりするんじゃないかな」
僕の答えはイマイチだ。
そう言えばこのお盆、初めて見た時から思っていた事はあった。何に使うのかは全く謎だが。
「こうしたら腕につけられるね」
と、右手に盾の様に取り付けてみる。子供の頃よく遊んだ。
「盾……盾なの?」
イトウさんは妙に納得している。
「じゃあこの何でも切れるナイフで切ったら……?」
大事な道具であるお盆をお金にするのはマズそうな気もする。
イトウさん、どうする?
そう聞こうとした時、既にイトウさんはナイフでお盆を切っていた。
「あっ!」
「……あ」
このお盆にはナイフが通らない。
何度か刺したり切ってみたが、全く刃が通らずキズすらつけられない。
「これ、お盆じゃ無く盾だったんだね。
でも、これがあれば斬られなくてすむよ、やったね!」
イトウさんは得意げな顔をしている。
「お盆(盾)の使い方が分かったとして、犯人誰なの?」
うーん。
2人で考えても判らない。
イトウさんは暑いのか自身をその辺の物で仰ぎながら話している。今朝よりも胸元が大きめに開いている気がする。
僕はなるべくそちらを見ずに話す。
「整理すると犯人は大学に関係してる誰かである事に間違い無い。
先生に紛れてみやさんが被害に遭っているのは、何でだろう。そもそも何故先生達が被害にあっているのかも判らない」
「みやさんは杖目的で狙われたんじゃない?もしくは犯人はみやさんに杖で殺されかけた、とか?」
「……成程、でもそれって僕達も……」
「そう、私達も狙われてるかもって事。
つまり放っておいても犯人は私たちの前に出て来るって事だな!
よし、じゃあ結論出たし、暑いし帰ろうかな」
何故かイトウさんの上半身は下着だけだ。
「な、何で脱いでるの?恥ずかしくないの?」
「いやぁ暑くてねー。お、照れてるのか?別にこのくらい構いはしないよ、何ならもっと近くで見てみる?」
…………。
「はっはっはっは!
正直だねぇ。あ、あと結論出た所でうちに遊びに来てくれ!ナイフ持って来てね!」
明らかに僕に引越しの不用品処理をさせるつもりだ。
「ちょっと位なら触ってもいいからさ!」
身体を突き出してくるイトウさんに対し僕は、
「遠慮しときます、だって触る所無いし……」
本当はちょっと触りたかったけど、みやにも悪いし……。
「ん?今何と言ったのかよく聞こえなかったよ、怒らないからもう一度言ってみな?」
明らかにイトウさんは怒っている。
かなり気にしてるみたいだ。
精一杯取り繕う。
「ごめん、かなり魅力的だと思うけどみやにも悪いし……昨日の振袖姿も素敵で一晩中頭から離れなかったのに今日もそんな服で……僕には刺激が……」
イトウさんはとても喜んでくれている。何とかなった様だ。
「振袖よかったかー、うんうん。
でもね、そーゆー事は後からじゃ無くてその時に言う物なんだよ。そうしないと女の人逃げちゃうぞ!でもまぁ許してあげる、よく出来ました!」
なんか上手い具合に嵌められた気もする。
「よし、ドライブ行こう、私の家まで!勿論帰りも送って行くからさ」
そう言いながらヘルメットを僕に渡す。
……え?
まさか僕もバイクで?
「何言ってるの?当たり前でしょ。行くよ!」
仕方無くイトウさんの後ろにしがみついて乗る。
とても恥ずかしい。
手をどう回していい物かよくわからなかったが、必死にしがみつく。
意外と風が気持ちいいが腰の辺りは落ち着かない。
イトウさんの家に着く。
ここが女の子の家か…みやの家以外入った事ないものなぁ、と思っていたが案外こざっぱりしていた。部屋は段ボールの山だ。
まぁ引っ越し前だから仕方ないよね。
早速イトウさんに呼ばれ不要品をナイフで切りまくる。
お金が沢山出てくる。
「あぁー最高だねぇ。京の引っ越しも手伝いたかったけど、時間が、ね。こめんね」
ここ数日イトウさんと行動を共にしているが、学生生活の最後になってこんな普通のいい人だと思い知らされた。
みやの話がなければこんな事にも気付かなかったんだなと思いながら。
もう時間も夜。
食事に連れて行ってもらい奢ってまで貰う。
話も僕に合わせた話をして、まじまじと僕の言う事を聞いてくれる。
素敵な大人の女性という感じだな。
「あ、夜遅くまで引き留めてごめんね、今すぐ送って行くから。京も引越し準備しなきゃ行けないだろうし」
「いいよ、そっちも忙しい様だから1人で帰るよ」
「そんな事は出来ないよ。ここまで来てもらって悪いし……寝具片付けちゃったけど泊まって行く?」
み、みやの話もしたいし、そ、それもいいかな?みやの為だし、うん。
自分に言い聞かせながら返事をする。
「何緊張してるの?別に恋人同士でも無いんだし女の家に泊まるの初めてでも無いんでしょ?」
「…………」
「い、いや、別に変な事しないから、大丈夫だよ。布団だけ荷物から引っ張り出すから。
こっちの部屋好き使っていいから、おやすみ」
イトウさんは急に焦りながら部屋に戻ってしまった。
部屋は段ボールだらけ。
何があった部屋なのかさっぱりわからないけど玄関潜った時からいいにおいしたなぁ。
これが大人の女の人なんだろうなぁ。
結局僕の引越し準備は全く進まないけど、あのナイフがあれば何とかなりそうだな……。
バイクスーツのイトウさんか……色っぽかったな。
女の人って服装違うだけで随分雰囲気変わる物何だな、何て思いながらうとうとしていると声が。
「起きてる?」
「うん」
イトウさんが部屋に入って来た。
暗くてよく見えないけど、パジャマらしき物を着ている。
「明日引越しだからあまり話出来ないけど、朝イチで送って行くから安心してね」
「うん、ありがとう」
僕は礼を言うとイトウさんは続ける
「正直、この学校であまり友達も居なかったから、学校生活最後に話ができて嬉しかった。今度会うまでに死な……いや、消えないでね。言いたかったのはそれだけ。おやすみ」
「おやすみ」
やはり話してみると怖いけど案外いい人なんだな。と思いつつ今のやりとりにちょっと何かを期待してたので少し残念にも思いつつ眠りにつく。
次の日、朝一で僕は家に送って貰った。
別れ際にイトウさんが言う。
「京!うすうす勘付いているとは思うが、もし今回の犯人を見つけたとして、京がそこで何をすべきなのか……敢えては言わないが覚悟はしておく事だ」
「うん……」
「じゃあ。また会う時まで、元気でな」
「イトウさんも元気でね」
そうして別れたが、何故かまたすぐに会える気がする。
そして次の日。僕も引越しをする。
長かった大学生活もここで終わり。
4月から社会人として過ごす事になる。
一抹の不安をかかえながら今までの住処を後にする。
何があってもみやの事は何としても真相を突き止める、そう心に誓いながら。
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