第16話 共通点

 今日は朝から調査だ。

 約束通りイトウさんが部屋を訪ねて来る。


 黒いライダースーツを着ている。

 扉を開けると自ら部屋の中に入って来る。

 ライダースーツって、着てる人初めて見たけど、意外と……凄いな。

 そんな事を思ってた僕を気にせずイトウさんはスーツの胸元を緩めながらプラモを見始めた。


「あれ?引越し準備始めたみたいだけど、プラモデルの方は手付かずみたいだな。

 しかし、こうして見るとよく出来てるなぁ」


 と言いながらとある所で止まる。


「これ、昨日も気になってたけど何でこんな所にお金置いてあるの?」


 お金?

 言われた所を見ると確かに小盛りではあるがお金の山がプラモの中にある。

 そしてそこは、最後に作ったプラモデルの置いてあった場所だ。


「ここに置いてあったプラモデルは?」


 僕が聞くと、朝見た時からこうなっていて、その場所にはお金しか無かったと話す。

 イトウさんしかこの部屋に入って無いのだけれどなぁ……。

 しかし、イトウさんにそんな事をする必要性は全く無い。


「そう言えばここに置いてあるナイフ、これどうしたの?」


 文化祭の出店で購入したと伝える。

 みやに渡した杖のおもちゃも同じくそこで購入した事も話す。


 イトウさんの顔色が真っ青だ。


 …………?


「悪い、今すぐ帰る。

 なるべく早く戻るから待ってて」


 イトウさんは出て行ってしまった。


 何なのだろうか。文化祭がどうかしたのかな。

 そう言えばイトウさんは何処に住んでいるのだろう。どれ位で戻って来るのかな?


 1時間後、イトウさんは戻って来た。

 黒いライダースーツ姿は変わらないが、何やら大きなカバンを持っている。

 部屋に上がるなりカバンの中から何かを取り出している。それは何かと聞くと、


「おぼんだよ。トレイ」


「は?」


 訳がわからず聞き直す。


 カバンの中から出てきたのは、燻んだ金色のトレイだ。表側の所々に宝石の様な装飾がある。

 とても使いづらそうだ。

 しかし、これはお盆と言うよりも……。


「これ、似てない?」

 そう言いながらナイフを指差す。


 確かに似ている。

 色も装飾もそっくりだ。


「これが何か関係があると思う。

 一応ナイフでの試し切り用にゴミも持ってきた」


 カバンの中から木の板、鉄の板、アルミの板……小さな物ではあるが色んな材質の板が出て来る。


 イトウさんは試しにナイフでその板を切ってみる。

 まるで豆腐を切るかの様に切れていく。


「ね?」

 イトウさんは得意げな顔をしている。


「ね?じゃない!何だこれ?

 僕のナイフに何か細工した?」


「勿論何もしてない。これ買った時何でも切れるとか言われなかった?」


 ……確かそんな事言われた気がする。


 イトウさんは続ける。


「多分私は同じ所でこのお盆を買った。その時並んでたナイフは何でも切れると教えてもらった……」


「もしかしてそれが僕達の共通点、なのか……。何でもって、何でも切れるのかな?」


 さっき切った板を何と無く見ると切断面が段々とお金に変化している。


「切るとお金に!?

 い、いや、これは……何か、見た事ある……」

 僕は思い出した、あの悪夢を。


「それはそうでしょ、自分でナイフ使ってたんだから」


「そうじゃ無い、僕が見たのは……人が斬られた、所……」


「!!

 何を見たの?」


 驚くイトウさんに、みやの話をした。勿論僕はみやを斬ったりしていない。


「……そっか、思い出させてごめん。

 だけど、もしかしたら消えた人達は皆斬られたのかも……もう一本ナイフが売ってたのかもしれない……」


「大丈夫、真実を明らかにする時点で思い出さなきゃ行けないのは覚悟していたけど……。

 やはり、これは殺人だったのか……」


 空気が重くなる。

 暫くの沈黙の後イトウさんが口を開く。


「……一つの仮定だけど、みやさんが斬られたとして他の人も同じと考えると、

 恐らくこのナイフで人を斬るとその人がお金になり遺体も残らない。

 斬られた人に関する記憶も他の人の中からも消えてしまい残らない。


 完全犯罪にしかならない。


 ……どうやら私達の手に余るとても危険な物らしい。

 なるべく使わない様にした方がよさそうだ。

 しかし、もう少しだけ調べてみようか……」


 その提案に、更に部屋にある不要品を色々切ってみた。

 全ての物を切る事が出来るし、薄く傷を付ける程度や浅く切ると進行は遅く、深く刺したり大きく切断する程お金に変わる早さも早くなる様だ。


「そう言えば、このお盆も何かあるんじゃ無いの?」

 僕は素朴な疑問を口にした。


 お盆なんて物を乗せて運ぶしか出来ない。

 出て来たお金や切った素材を乗せてみたが何も起こらない。

 お盆の使い方を間違えているのか、他の何かが必要なのか。


 特殊なデザインの何でも切れるナイフ。

 ナイフと似通った特殊なデザインのお盆。


 そう言えば結局僕達の共通点は本当にこれらを所有している事なのだろうか。

 イトウさんに話すとあながち間違って無いのかもしれない、とは言われる。


 そしてお盆の使い方を2人で色々試し、考える。

 お盆の使い方がわからないまま時間だけが過ぎていく。



「そういえばこのナイフ、引越しにいいな」


「あ、確かに。あとで借りて行っていい?」


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