第15話 卒業式

 半月後。ついに今日は卒業式。

 ここで全てを明らかにするか、大きな進展がなければ全ての道が潰えてしまう。


 ……でも、やはりみやと一緒に卒業式出席したかったなぁ、等と思いつつもかなり早めに卒業式に向かう。

 しかし、出席するつもりはない。


 会場であるホールの入り口で対象らしき人物を全員確認する予定だ。

 受付に潜り込む事ができればとも思ったが、確実な方法はこれしかないと判断。

 出席しなくても卒業出来ない訳でも無いし、みやと一緒に出席出来ない卒業式にも意味を見出せない。


 ホールの入り口も一箇所。広くはあるが目視は出来そうだ。

 人の出入りを確認出来る場所に待機する。


 徐々に人が会場に入って来る。

 作成したリスト片手に出席する人を確認する。

 佐藤と山田も入って来た。


「あれ?お前何やってるんだ?早く行こうぜ」


 山田が話しかけて来るが、出席せずにここで待機する事を伝える。

 不思議そうな顔をしていたが、僕の手にあるリストを見て察したらしい。


「お前……どんだけ彼女欲しいんだよ……」

 明らかに引いている。


 また何か誤解がある様だが、今の僕には入って来る人の確認の方が大切だ。

 会場に入っていく山田達を後に他の人達を確認していく。


 会場に入って行く全ての女生徒に対して、その友達で学校に来なかった人が居ないか確認を取っていく。


 作業は順調。やはりこの方法でならリストに載ってない人の分も確認出来る。


 安心していたその時。


「君、何やってるの?生徒達から苦情が上がってるんだが」


 ……先生に見つかった。

 しまった、作業に力が入り過ぎた。


「うちの生徒だよな?確か城田京也くんだったね。早く会場に入りなさい、そろそろ卒業式が始まるぞ」


 人を待っている、トイレ行きたくてうろついていた等苦し紛れの言い訳をするが、苦情が出ていると強めに言われ会場の中へ連れて行かれる。


 想定外だ、プランは完璧だった筈なのにどうして……。


 卒業式後、皆学校の至る所で友達同士で会話している。

 ダメだ、誰が誰だか分からない。

 計画は実を結ばずに頓挫してしまった。


 僕は今、山田・佐藤と一緒に居るが、最初は意気消沈している僕を気遣い話しかけて来ていたが2人の言葉は頭に入って来ない。


 そのまま2人も何処かに行ってしまった。


 そして、卒業生は帰ってしまいキャンパスから誰も居なくなる。


「ダメだ……みや……ごめん。僕は、僕は……」


 自分の無力さから涙が溢れて来る。

 何も分からず、何も出来ず、みやにも申し訳無くてただただ泣いてる。


「またかお前は。昔の彼女の名前とか言いながら泣いちゃって。相変わらず女々しいねぇ」


 ……またこのタイミングでイトウさんか。

 振袖姿のイトウさんが目の前に居る。

 カッコからは似つかわしく無い、荒々しい言葉が出てくる。


「こんな情け無い姿見たら、消えた幼馴染もドン引きだったろうよ」


 黙って聞いていれば言ってくれる。


「じゃあ……イトウさんに何がわかるんだよ」


「わかってるさ……君の大好きなみやさんの事も、先生達の事も。

 いつか言った話しをしたい。場所を変えるぞ」


 …………。

 イトウさんは何を言っているんだ?

 考えが追いつかない。


 漸く落ち着きはじめ、イトウさんに言われるがままに僕の家に向かう。

 何故僕の部屋なのか聞くと


「私の部屋に入るつもりなのか?」


 と凄い威圧で反論出来なかった為だ。


 部屋に着くとイトウさんは勝手に上がり、部屋を適当に見て回ってる。

 振袖姿の女の人が僕の部屋に入るのは違和感しか感じない。


「プラモデルが沢山あるけど、思ったより綺麗な部屋だな」


 どうやら褒められているみたいだ。

プラモを覗くイトウさんのうなじが見える。

…………。


 イトウさんは続ける。


「さて、京。一連の失踪事件について、何故私達だけが失踪した人達を覚えているのか、思い当たる節はないか?

 それとも何か私達とみやさんの共通点に心当たりは?」


 共通点……この前もみやと考えてみたがイトウさんとも共通する事……特に思い当たることは無いがそれよりも最初に聞かなければならない事を聞いた。


「ちょっと待って、イトウさんは僕達があの事覚えているのを知ってるの?」


「あぁ、知ってる。和光が消えた後聞き込みしてただろう。あれだけ派手に動いていれば誰でも気づく」


 確かにその通りだ。

 しかし、そうなれば一つの疑問が残る。


「そう言えばあの時、和光と何を言い争っていたのか教えて欲しい」


「あぁ、実は私の友達がアイツにいいように弄ばれてしまって、その事について……な」


 …………え?

 イトウさんは続ける。


「アイツは前から女生徒に手を出す碌でも無い奴でね。葵にまで手を出したからガツンと、ね」


 葵と言うのはイトウさんの友達の名前らしい。

 僕が探していたのはその人だったのだろう。


「その人達は今何処に?」


「消えたよ。私の前から突然消えてしまった。葵が居そうな所は何度か探してみたけど、見つからなかった。他の被害者に関しては名前すら私は知らない」


 その友達に最後に会ったの文化祭の時らしい。


 和光が消える前だ。

 やはり和光に関わった人は皆消えてしまうのだろうか。


「葵さんは、他の人達と同じ様に消えてしまったのかな?」

 と僕は尋ねる。


「他の人に聞ければよかったんだけど、人間関係も希薄で確認出来なかった」


 待てよ、と僕は山田と作成したリストを確認する。

 ……ダメだ、載ってない。調査出来てないのか記憶から消えているのかは判らない。


 結局僕が知りたかった事は分かったけど、事件の調査は進展はしてないままだ……。


 気付けば夜も更けてきている。


「話変わるけど、京はいつまでここにいる?引越しとかは無いの?」


 そう言えばタイムリミットがある。

 僕は4日後には引越す。東京にある会社の寮に入らなきゃならない。

 イトウさんは3日後。

 神奈川に引越すとの事で、実質明日しか動けないらしい。


 電話で話す事はできるが、出来れば面と向かって話した方が話し易いのもある。

 時間は惜しいが、流石に夜通し話し合う訳にもいかないな、等と話をしていた時……


「じゃあ……今夜は一晩中お互い身体の共通点探しでもしようか」


 !!

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまう。

 はははと笑うイトウさん。


「冗談だよ。明日朝から出直すよ。早く着替えたいし。

 私達の共通点、考えといて。

 また明日ね。京!」


 そう言うとイトウさんは帰ってしまった。


 僕も引っ越しの準備、しないとな……。もっと時間欲しいなぁ。


 僕達の共通点か……。

 引越し準備をしながら色々と考えを整理し床についた。


 振袖かぁ……悪く無いなぁ、うなじもよかったなぁ……等と関係ない事も考えながら眠りについた。

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