第9話 様々な問題

 授業の後、僕はまたみやを強引に食堂へ誘う。勿論僕の奢りだ。


「え?今日もいいの?」と、みやは驚く。


 最近どうせ碌な物を食べてないのだろう。

 体調は大丈夫そうだが、みやはこの前より明らかに痩せ細っている。それにさっきの鳥畑先生の話も気になる。


「うん。ごめんね、いつもありがとう」


 カウンターで食事を受け取り、足早に席に着く。

 みやは普段と同じ様に振舞っているつもりだろうが、何処からどう見ても早く食べたい様が見て取れる。


 席に着くと、いただきますと言いながら相変わらず凄い勢いで食事を平らげていく。


「まだ財政難なの?」

 周りに聞こえない様小さい声で尋ねる。


「うん。生活を切り詰めてるんだけど前と同じ仕送りとバイトの給料じゃ生活キツくて。バイトも時間延ばして貰ってるけど追いつかないの」


 恐らく一番一緒に居るであろう僕の目にもみやが金遣いの荒い生活をしていない事はわかる。


 何かに騙されているとか、少しずつお金を盗まれている可能性があるのでは無いだろうか。

 その辺りを再度聞いてみるが本人もよくわからないらしい。

 ちゃんとお金は自分で引き出し、

 気付くと足りなくなっているので管理も出来ている筈だと言う。

 勿論誰かに盗られた形跡も無いらしい。


 何故こんな事になっているのか、この話だけではさっぱりわからない。


 みやはあっという間に食事を平らげたのでみやの食事を追加で注文しながら話題を変える。


「鳥畑先生の話なんだけど……」


「うん……」

 みやは食事しながらでも真剣に聞いている。


「何故僕達だけが覚えてるんだろう、何か周りと変わった事してるかな?」


 2人で色々考えたが皆目見当もつかず、結局朝の結論通り人目につく所でのこの話はやめようと言う事で纏まる。


「ご馳走様でした。京ちゃんありがとう。

 お腹いっぱいになったよ。

 今日はクリスマスだし、明るく行こう」

 みやはいつもの様に明るく微笑む。


 その時、みやは食堂の奥に誰かをみつける。


「あ、なぎさんが居るねぇ。

 京ちゃんもたまにはなぎさんとお話ししよう」

 明るい声で提案してくる。


 ……あまり気が進まない。

 みやは「もう自分は大丈夫だから」と僕に見せたいつもりなのだろうか。

 僕はみやに手を引かれ、なぎの向かいの席に座る。


「何だよ?時間無くて勉強しながら食事してるんだから邪魔しないでくれ」

 なぎは最初から馴れ合う気など無い。


「昔は皆でよく遊んだよね!

 たまには少しだけでも皆でお話ししようよ。

 いつも勉強してるけど、目標とかあるの?」


 食い下がるみやに対してなぎは答える。

「今は勉強して先ずは一流の企業に入る。更に将来はその大企業の上を目指して自分の思う会社を作りたい」


 珍しく素直に答えている。

 みやには人を素直にさせる力があるのかも知れない。


 しかし、壮大な将来像だ。

 現実離れした話では無く、全て計画的に考えており色々と詳しい説明もしていたが、僕の頭には難し過ぎて入って来ない。た

 勉強以外にもやれる事は全て覚え、どんな手を使ってでも上にあがりたいと力説していた。

 案外「スイッチ」が入ると止まらないタイプらしい。

 みやと僕は頷くしか出来なかった。


「そういえばこの前文化祭の時見かけて追いかけたんだよ。あんな所に居るの珍しいよね」


「学校だから何処に居ても不思議は無いだろう」

 また参考書を見ながらなぎは答えるが、

 更にみやは続ける。


「文化祭楽しかった?

 私は杖のおもちゃ買って貰ったんだ。

 綺麗な色しててかわいいんだよ」


「…………?

 こっちは食べ終わったので、そろそろ帰らせて貰う」

 何かが気に障ったのか、なぎは突然帰ってしまった。

 と、言うよりずっと勉強しているのを妨害し続けていたので無理も無い。



「もうちょっとお話してくれてもいいのにねー」

 みやはとても不満そうだ。


「しかし、よく隔てなく色んな人に話しかけられるよね。みやは凄いなーって、たまに思うよ」


「え?たまになの?

 ゲームとかでも私に勝った事ないでしょ?」


 あぁ、そうだった。

 ゲームも凄く上手いんだった。僕は一度も勝った事が無い。


「よかったら今夜も久しぶりにゲーム勝負しよ!

 今日は楽しみだなぁ。沢山遊びたいし沢山お話ししようね」


 今朝からの不安を少しは拭えたのかもしれない。

 僕達は学校を後にし、自分の家で夜の約束の時間を待った。

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