第5話 予兆

 あれから数週間後。

 文化祭も終わり通常授業の始まったある日。

 11月に入り外はもうすっかり寒くなって来た。


 学校へ向かう途中、通学中のみやを見かける。


「おはよう、京ちゃん」


 いつも笑顔で挨拶をしてくれるが、少し顔色が悪く、やつれている気もする。


「おはよう。大丈夫?何か顔色悪いよ?」


「うん、なんか少しお腹空いちゃって……

 あぁ、そうだ!明日は予定空いてる?

 学校終わったらさ、うちに来ない?」


 みやの親戚のおばさんと子供達がまた遊びに来るのだろう。

 この前来たばかりだった気もするが……。

「いいよ。また子供達と遊びに行くとしますか」


「うん、ありがとう!いつも子供達の面倒も見てくれるし助かるよー。因みに夕食はカレーです」


「あーネタバレはいけないよー!」等と

 他愛も無い話しをしながら授業に向かう。


 佐藤「おはよー、今日も相変わらず仲が良さそうな事で」

 山田「おっす!みやちゃん、

 俺とも仲良くお話ししようよー」


 佐藤と山田だ。

 冗談も混ぜながらいつもの4人で楽しく通学。

 口は悪いが皆、仲の良い友達だ。


「今日朝から和光(先生)の授業だよー。だっりいなー」


 山田はあの先生の事をかなり嫌っている。


「あいつ最悪だよなぁ。頭良い人からも評判悪いし。何処か他の学校行ってくれないかな」


 と佐藤も続ける。


 言いたい放題言っているが、勿論僕もみやも口には出して無いだけであまり好きでは無い。

 誰に対しても傲慢な態度を取るとか、女子を変な目で見てるとか理由は色々ある。

 セクハラされ虐められた女生徒が学校に来なくなったとの噂まである。


「おい、お前ら邪魔だよ!」


 突然後ろから声をかけられる。

 少し道を広がって歩いてしまったようだ。

 謝りながら道を開けると舌打ちされる。


 イトウさんだ。

 同じ4年生の数少ない女の人だ。暴力沙汰でのいざこざや、授業そっちのけで好きなバイクで走りに行ったりしているらしいので、単位が足りず何年か留年しているという噂だ。


「今日1番ビビったよ。何事も無くてよかった」


 そう言っている山田は、過去に何度か殴られた事があるらしい。

 とは言え、以前山田が彼女に惚れていたらしく、しつこく追いかけ付き纏ったりしていたので因果応報なのかもしれない。


「私も睨まれちゃったよー。道広がって歩いちゃダメだよー」


 みやに諭されながら授業へ向かう。



 そして授業が始まる。

 珍しくイトウさんも真面目に出席し授業を受けている。


 つまらない授業がゆっくりと進んで行く。

 僕がノートをとっている時、隣の席からみやが話しかけてくる。


「ほら、あれ。どうかしたのかな?」


 みやが指さす方をみると、教室の前の席の辺りで和光がマイクを外し、イトウさんと何か言い合っている。

 イトウさんはかなり怒っている様だ。

 凄い剣幕で立って怒鳴っているが僕の席からは断片的な声しか話が聞こえない。

 そしてイトウさんは和光の胸ぐらを掴んだ後、乱暴に突き放し外に出ていってしまう。


 和光は「こんな所で授業出来るか」と授業を放棄して外に出ようとするが、一部の生徒から授業を続けろと文句を言われる。

 その文句を言っている連中の中には、なぎの姿も見える。

 この授業は必修科目なので、ここに居る全ての生徒に於いて大切な授業なのだ。


 結局和光は外へ逃げてしまい、授業は中断したまま再開されることは無かった。


「何か大変な授業になっちゃったね……帰ろっか」


 僕達は教室を後にするが、みやを連れてそのまま食堂へ向かう。

 驚くみやに「たまにはお昼を一緒に食べよう」と強引に誘う。

 いつも授業終わりは2人とも家に帰ってしまうので、こうして食事する事は滅多に無い。


「何があったか知らないけど今日は奢るから沢山食べて!」


「……ありがとう、京ちゃん。実は最近、

 あまり食べてなくて」


 理由を言いかけたみたいだがそれ以上は答えてくれなかったし、それ以上聞く事もしなかった。


「遠慮なく食べて!2食でも3食でも大丈夫だよ」


「うふふ、そんなに食べられないわよ」


 と言いながら、今まで見た事無いくらいの勢いで食べて行く。余程お腹空いてたのだろう。


「あー、ありがとう!生き返ったよー」


 明らかに今朝よりも顔色が良くなっている。

 本当にただの空腹だったのか……。


 お昼ご飯一食奢っただけで何度も何度もお礼を言われ、今日はそこで別れた。

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