第3話 怪し気な物販

 みやは不機嫌そうに聞いてくる。


「そう言えば何を探してるの?」


 模型用のナイフかカッターを探している事を告げると、先ずはダメ元で文化祭の物販コーナーで探してみようと提案して来た。

 刃物は流石に売って無さそうな気もするが、怒り気味なみやには従うしかなかった。


「あ、あそこになぎさん居るよ!

 おーい!」


 みやが突然なぎを呼んでいる。

 友達のなぎが何処かに居る様だ。

 彼はこの大学随一の成績の持ち主。

 いつも勉強ばかりして大企業への就職を狙っているらしく、文化祭も興味無しで勉強しているのかと思っていた。

 珍しい事もある物だ。


 なぎが気付いて無い様なので、みやが追いかけて行く。

 勿論僕も連れて行かれる。


 が、見失ってしまった様だ。


「さっきこの辺りになぎさんが居たんだよ、

 気の所為だったのかな?

 なぎさんって京ちゃんも仲良かったよね?」


「いや、昔は良く一緒に遊んでたけど向こうは付き合いが悪くて……最近はあまり話す事も無くなったな。

 今は1人で篭もって勉強ばかりしてる方が楽しいんじゃ無い?」


「何だ、京ちゃんと同じだね」


「どう言う意味だよ!」


 そこでみやが物販で売っている何かに気付く。


「あっ!これ可愛いね。京ちゃんの欲しいナイフもあるよ」


 みやに言われた方を見ると、魔女の様な大きな鍔広の三角帽子を被った可愛い女の子がいくつかの物を売っている。

 コスプレして物を売ってるのは特に珍しくも無いが、売っている物はおもちゃにしか見えない。


 いくつか売れている形跡があるが、残っているのはナイフらしき物と魔女っ子のステッキだろうか。

 どちらも全体的にくすんだ金色をしており、握りの所には宝石らしき物が埋め込んである。ナイフは刃先まで金色だ。


「このナイフ、マトモに使えそうには無さそうなんだけど……」


「使える使えないなんて二の次。この杖可愛いから私は買うよ。京ちゃんも一緒に買おうよ」


 やんわり否定する僕に無茶苦茶な理論で強引に勧めてくる。

 こんな時のみやは強い。


「い、いや、無理だろこれ。おもちゃみたいだし絶対切れないよ」


 更に断ろうとしていた私に店の子が話しかけてくる。


「いいえ、このナイフの切れ味は抜群ですわ。

 よろしければ試してみます?」


 僕は驚いてそのまま本心で反論してしまう。

「えっ!これおもちゃじゃ無いんですか?」


「ええ、違います。寧ろ何でも切り裂く事が出来る特殊なナイフです。如何ですか?」


 よく考えてみると所詮大学の文化祭だし、マトモに使える物何て手に入らないだろう。

 さっき怒らせてしまったみやの機嫌も取りたいし無駄金使うか……。


「試さなくてもいいです。おいくらです?」


「どちらも300円ですー」


 値段的にもやっぱりおもちゃじゃないかと不満に思いつつも杖とナイフを購入。

 ありがとうございますと、お礼を言う魔女コスプレ店員を後にしてみやに杖を渡す。


「わぁ、ありがとう!うちの子達喜んでくれるかなぁ」


「あぁ、自分用じゃないのか?」


「そんなはず無いでしょ!あの子達にあげようかと思って」


 勿論みやの子では無い。

 みやは大学に通う為に一人暮らしをしているが、時々みやの親戚のおばさんが子連れで遊びに来る。

 僕とも面識があり、よく食事をご馳走になったりしてる。


「あ、今夜私のうちに来れる?

 おばさん達が来るんだけど?」


「わかった、行くよー。久しぶりに子供達の顔も見たいし」


「ありがとう。待ってるよ。

 夕食用意しとくから食べずに来てね!


 あ、私そろそろ戻らないと。京ちゃんも展示室に様子見に来てよ。京ちゃんの作ったジオラマ、ホントに大人気なんだから!」


 展示室に行く気は無いので「わかった」と生返事で答えたが、

 すっかり機嫌が戻ったみやは満足気に展示室へ戻って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る