第26話 行かない?



 俺はベッドに転がりながらぼーっと今日のことを思い出す。


 浮気された同士だからこそ、またやり直せる……か。


 もしかしたら、俺が星那と出会っていなかったらその言葉に頷いていたかもしれない。だって、眞白は俺にとって唯一とも言える友人でもあったから。


 眞白に浮気されてからの俺は今思うと酷かった。

 全てがどうでも良くなり、何度も死にたくなった。

 相談できる友人なんかもいなかった。

 俺は一生一人ぼっちなんだと、自分に価値なんてないんだと悲観していた。


 そんな精神状況であれば眞白の言葉に飛びついていたかもな。


 だが、星那のおかげで俺は俺でも友達が作れることがわかった。胸を張って生きていいんだと思えた。


 俺はスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。

 そこには星那と家族の連絡先だけが表示されており、眞白の名前はどこにもなかった。


 冷たいようだが、今の俺にとって、もう彼女は必要無い。


 しかし、眞白は本気であんなことを言ったのだろうか。

 俺の記憶の中の彼女は一度捨てたものを拾うような性格ではなかった。


 彼女にとってももう俺は必要ないんじゃないのか?だから捨てたんだろ?


「やめだ、これ以上考えても無駄だ」


 わからないものはわからない。

 それに、もう眞白と俺は関わることがないのだ。

 全部忘れよう。


 俺は気を紛らわすためにスマホを見る。

 すると、ふと星那の連絡先が視界に映った。


「あっ、やべえ、次の約束するの忘れてるじゃん俺……」


 今更気づいてしまった。

 いつもは星那から約束してくれていたので忘れていた。


 そもそも、女の子から毎回、約束を取り付けさせてる時点で最低だな俺。

 まるで星那に対して仲良くする気がないと表明しているようなものではないか。


 俺はスマホの中のメッセージアプリを開く。

 だが、いざ星那を誘おうと思っても何も案が思い浮かんでこない。


 これが、友達が少ないことの弊害か……。

 俺がそう、頭を抱えていると


 コンコン、と扉がノックされた。


「栄人? 居るかー?」


「居ない」


「一応、渡しておくものがあってさ」


 そう言いながら姉ちゃんは扉を開ける。

 いや、俺の言葉完全にスルーするじゃん。


「これ、私要らないからあげるよ」


「何これ……」


 渡されたのは100や500などの数字が書かれた紙であった。

 下の方には『花火祭り』と書いてある。

 まさか……


「それ、毎年ある駅の近くの花火大会の屋台で使える商品券みたいなやつ。友達が要らないからって私に渡してきたんだけど丁度、その日、部活の合宿あってさ。理沙も予定あるっぽいからあんたにあげるよ。最悪捨ててもいいからさ」


「い、いいのか?! めっちゃ使う! ありがとう!」


 これだっ!

 夏といえば花火大会。

 丁度いいじゃないか!


「そんなに嬉しかった?……ふうん、青春だねぇ」


 姉ちゃんは察したような表情をし、意味不明な独り言を呟くと部屋から出ていった。


 まあ、いいか。

 俺はネットで祭りの詳細を調べる。


「日程は……」


 来週の土曜か。

 それならバイトも丁度ない。


 俺は早速、文字を打っていく。

『花火大会行きませんか』……うーん、文字だけだからか何だか寂しく見える。

 それに何回も遊びに行ってるのに敬語なのもおかしいか。


『花火大会行かない?』


 こっちはこっちでフランク過ぎないか?

 まるでチャラ男みたいな感じがしなくも無い。

 だが、星那に距離を感じさせるよりはいいか?


 俺は送信ボタンに指を伸ばした。


『来週、花火大会行きませんか』


 その言葉は俺から送ったものではなかった。


 星那からそう送られたのだ。








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脅されてヤンキーの彼女をナンパした。なんか成功してしまって今修羅場。仲深めたらヤンデレ化してきてさらに修羅場。 わいん。 @wainn444

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