第20話 それも貴方が傍にいるからなんですよ
「バッティングセンター?」
俺はトイレから帰ってきた後。
「はい、実はここの近くにあるみたいで……1度行ってみたかったんです」
彼女はバッティングセンターに行かないかと提案してきた。
バッティングセンター……ね。
いい提案だと思うが俺も行ったことがないからエスコートできるか不安だ。
その上……
「星那はその服で運動できるのか?」
彼女の服装が1番、心配であった。
俺は彼女のスカートを一瞥する。
「このスカートですか? 大丈夫です、丈が短いわけでも無いのでバッティングセンターくらいであれば大丈夫です」
「そうなのか?」
その言葉が何から来るのかはわからないが、そこまで彼女が断言するなら大丈夫なのだろう。
それにゲームセンターにあるものはもう、ほとんど楽しみ尽くして丁度、これからどうしようか悩んでいたところだしな。
「よし、それじゃあ、バッティングセンターの場所は……」
俺はスマホの地図アプリを起動する。
「案内しますよ。1度、見たことがあるので」
が、彼女はそう言い、俺の手を引く。
――――――
――カキーン!!!
聞いていて心地よい音がこの場に響く。
「ここがバッティングセンターか……」
「栄人さんも初めてなんですか?」
「ああ、実はね。俺は元々、そんなに友達が多い方じゃないから、なんだかんだで行ったことのない場所も多いんだよ」
「……そうなんですか?」
俺は球速などを変えられる機械を弄り終え、バットを担ぎながら話し始める。
「ああ、元々俺は人見知りだったんだ。それは今もだけど……昔はもっと酷かった。両親や幼馴染の後ろにいつも、隠れていてな……あの3人以外に対しては挨拶すらほとんど出来てなかった」
「そうでしたね」
彼女は少し、俯きながら独り言のようにそう呟く。
だが、その声はバッティングセンターの球をバットで飛ばす軽快な音にかき消される。
「だから、実は中学に上がるまで幼馴染以外の友達がいなかったんだよ……情けない話だよな」
「そ、そうだったんですね」
どうかしたのだろうか。
彼女はまだ顔を俯かせている。
そして、一瞬だけ、その横顔はなんだか、悲しそうにも見えた。
「大丈夫か?」
「どうかしました?」
だが、次の瞬間には彼女はいつもの笑顔で俺を見ていた。
気のせいだったのか。
「あっ、でも1人だけ友達って呼べる子は居たかもしれない」
「本当ですか?!」
彼女は俺がそう言うとかなり、食いついてきた。
「ああ、本当だよ。といっても1回しか会ってないし、その子は俺の事を友達と思ってくれていたかはわからない……その子とは確か親父の知り合いの子供でさ、その縁で会ったんだよ」
俺は何回か軽く素振りをする。
「っ……!」
「それで、その子は太陽みたいな笑顔に透き通るような声で俺に挨拶してくれてな。俺はあの時、すっげえ俯いてボソボソ挨拶し返したけど俺は彼女の誠意のある挨拶が嬉しくてさ」
「そうなんですね……それでその子のことを友達と……」
「あはは、流石に一度会って挨拶された程度で友達だと思うのは我ながら気持ち悪いな」
思い出話をしていたらいつの間にか俺のキモエピソードになってしまった。
引かれてないだろうか。
そう思って不安に思っていると
「そんなことありません」
返ってきた言葉は意外なものだった。
「そんなことないです!!! きっと、その子も貴方のことを友達だと思っていたに決まってます!」
「そ、そうか?」
「ええ、きっと……いや、絶対」
「お、おう」
そこまで断言されるとそんな気がしなくも無いけど。
今日の星那は謎の自信が凄いな。
「実は私も人見知りなんですよ」
「え……? い、いや、流石に卑屈が過ぎるよ、星那は会った時から今までこんなにも明るいじゃないか」
「……それも貴方が傍にいるからなんですよ」
「え? 何か言ったか?」
「いえ、何でもありません」
偶に彼女の言葉は小さすぎて風に消えることがある。
今度は絶対に私の物にしますから……けれど、その言葉だけは微かに聞こえた、聞こえてしまった。
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