第18話 ちゃんと恋人になってから



「栄人さん! こっち来てください! これなら二人で遊べますよ」


 俺たちがフラフラと歩いていると、突然、星那が俺の手を引っ張った。


「どうし――い、いやぁ、あれは別にいいかなぁ」


 星那が指さした先には女性の写真がでかでかと貼られた機械……プリクラ機があった。


「あれって、ぷりくら?って言うんですよね。私、1度インターネットで見てから興味があったんですよ! ダメ……ですか?」


「っ……?!」


 星那は上目遣いで俺の服の袖を掴み……今にも泣きそうな悲しげな表情をする。


 ぐぁぁぁぁっ! 超絶美少女にそんな事をされて断れる男がこの世に居るだろうか。いや、居ない!

 居たら俺が許さん!


「わかった……けど、1回だけだよ? ああいうのは俺、あんまり得意じゃないから」


 昔、1回だけ、プリクラは撮ったことがあるが……そんなに楽しくはなかった。

 だが、星那のお願いであれば聞かない訳にはいかない。


「これを操作して色々設定するんですよね!」


 すると、いつの間にかに星那はプリクラ機の画面を操作していた。


「あ、うん、やり方は俺が教えるよ」


 俺はそう言ってプリクラ機の近くまで歩くが……


「いえ、もう設定し終わりました! さあ、撮りましょう!」


 星那が全ての設定を完了しており、プリクラ機からは撮影ブースに移動してね、という案内の音声が流れている。


「へ? いや、お金とかは……」


「全部やりました! さあ、撮りましょう!」


 俺は星那に押し込まれるように撮影ブースに移動する。

 すると……


『まずはハートを作ってみよう!』


 うん?あれ?


「ハート?」


 あれ、こんな感じだったっけ。

 とりあえず俺はぎこちない表情で、前の画面に表示されたように片手でハートを作り、星那も同じようにハートを作ると……写真が撮影された。


『次は熱い熱いハグをしてみよう!』


 次は熱いハグね……ってハグ?!


「いやっ、これ絶対おかしいよね?! モード間違えてない?!」


 俺の知ってるプリクラじゃない!

 これは所謂……カップルモードってやつなんじゃないか?


「わっ、すみません、もしかしたら間違えていたかもしれません……でも、お金が……」


 うっ、確かに勿体ない……。

 多分、4、500円くらいだよな……くっ、地味に痛い。


「あっ、カウントダウンがもう始まってます!」


 画面を見るとそこには5という数字が。

 ご、5秒で星那とハグしろってこと?!


 待て待て待て、心の準備的に例え45秒あっても星那とハグなんて出来ないぞ!

 そう思って俺は焦っていると


「んっ……」


「っ……?!」


 星那は両手を広げ、覚悟を決めたように勢い良く俺に飛び込んで来た。


 ナニコノカンカク。

 なんか柔らかいものが当たってるような……。


 すると、パシャ、という音と共に写真は撮られ、前の画面には焦りと緊張に染まった俺とそんな俺に抱きつく赤面した星那が表示される。


「ご、ごめんなさい! 勝手に抱きついちゃって……」


 星那は俺から離れると、赤くなった顔を隠すように俯く。


「い、いや、俺は全然大丈夫だよ……寧ろ、俺みたいな男からしたら、こんな美人に抱きついて貰えるなんて嬉しくないわけないだろ」


 あ、あれ? 何言っちゃってんだよ俺。

 言ってることがただの変態じゃないか。


「そ、そうですか……!」


 そう言った後、星那は顔だけでなく、耳までも真っ赤に染まった気がした。


『次はラブラブな恋人繋ぎをしてみよう!』


 もうそこからは記憶がない。


 ただ、世の中の男たちよ、安心して欲しい。

 キスだけは、キスだけはしてない。

 最後にその指示が来た時、俺たちは恥ずかしさで、もうこれ以上動けなかったからだ。


 そんなこんなで撮影が終わり、俺たちは落書きブースみたいな場所に案内されたのだが……もうお互い、気まずくて落書きなんて何にも出来なかった。


 そうして写真が印刷されていく。


「えっと……ごめんなさい、こんなことになると思ってませんでした」


「い、いや、しょうがないよ。初めてプリクラするんだし……」


 パラ、パラと写真が取り出し口に落ちていく。


「うぅ……自分でやった策に自分が耐えられないなんて……プリクラというのはこんなにも恐ろしいものだったのですか」


 星那が何か口をゴニョニョ動かしているが……そんなに恥ずかしかったのか。


 そうだよな、こんな男と急にハグすることになるなんて……耐えられるもんでは無いな。


 すると、全ての写真の印刷が終わった。


「えっと……写真、要るか?」


「一応、貰っておきます」


 あ、一応、貰うんだ……。

 俺は初めてのプリクラをこんな形にしてしまったことに罪悪感を覚えていた。


「今度、ちゃんと撮り直さないか?」


 俺はそう提案した。

 今度は無いかもしれないが……もし、次ゲームセンターに来ることがあれば撮り直したい。


「はい、今度はちゃんと撮りましょう……ちゃんと恋人になってから」


 彼女は最後にボソッとそう付け加えるのであった。



 ――――――


 1000フォローと5万PVありがとうございます。

 これからもどうか、拙作をよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る