第17話 楽しんでいる姿を見る方が私は楽しいですし



「やった! 1回で取れました!」


 星那は機嫌良さそうにさっき手に入れたカワウソのぬいぐるみを抱きしめて歩く。

 ビギナーズラックだと思うが……もしかしたら、星那はクレーンゲームの天才なのかもな。


 すると、星那は左を見つめ始め、歩く速度が少し遅くなった。

 どうやら、あそこの台が気になるらしい。


「やってみるか? さっきみたいに簡単にはいかないかもしれないけど」


「はいっ!」


 星那はさっきと同じように100円玉を台に投入する。


 が、そこで星那の手が少し止まる。


「レバーがありません!」


「そのタイプのはそこのボタンで動かすんだよ」


 俺は上と右の矢印が書かれた2つのボタンを指さす。


「わかりました!」


 星那は台の横に移動しながら奥行きを調節し、次に左右を調節する。

 しばらくすると、クレーンは動き始める。


 しかし、クレーンは熊のぬいぐるみの少し左に降下した。

 これでは軽くぬいぐるみを撫でるだけで終わるだろうな。


 だが――


「やった! やりましたよ、また取れちゃいました!」


 そこにはカワウソのぬいぐるみを左手に持ち、熊のぬいぐるみを抱きしめる星那の姿があった。


 実はクレーンのアームが見事にタグを引っ掛けたのだ。

 そして、綺麗にタグに引っかかったアームはそのまま持ち上がり、穴まで熊のぬいぐるみを運んでいった。


「ま、マジかよ……星那、天才だったのか?」


 2度も一発で取れるなんて……本当にこの子、初めてなのか?


「もしかして、さっきのタグに引っかけるやつ……狙ってやったのか?」


「はいっ! 1回、動画で見たことがあって……見よう見まねでやってみたら偶然、成功しちゃいました」


「マジかよ……」


 この子、天才だ。


 その後、星那は色々なクレーンゲームで1〜3回だけで景品を取っていき……いつの間にかに星那のバッグは色々なぬいぐるみで溢れかえっていた。


「クレーンゲームってこんなに取れるものなんですね」


「いや……どうだろうねぇ」


 うっ、昔、クレーンゲームでフィギュアに3000円も使って取れなかったことがあるなんて言えねえ。


「あのっ、栄人さん……あの機械は何ですか?」


 そう言って星那はある方向を指さした。

 そこにあったのは


「スロットか。あれは結構、運要素が強いけど……やってみる?」


「はいっ!」


「じゃあ、一旦、こっち行こうか」


 俺はスロットとは真逆の方向に歩き出す。


「あの、そっちは逆方向ですよね……?」


「うん、まずは……これやんないと」


 俺はメダル両替機を指さす。


「メダル……ですか?」


「スロットとかのゲームはこのメダルでしか出来ないんだよ。……とりあえず500円でいっか」


 俺は両替機を操作すると、下のカップにたくさんのコインが落ちてくる。


「凄い!こんなに沢山……」


 星那も俺に習ってお金を入れてメダルに両替する。


「でも、こんなに沢山使えるものなんですか?」


 星那はメダルがずっしり入ったカップを持ち上げ、ジャラジャラと鳴らす。


「意外とこれくらいなら使い切れるもんだよ、まあ、使いきれなかったら預けられるらしいし……じゃあ、スロットのところ行こうか。」


 スロットの場所に行くと、3つあるスロットの内、2つはおじさん達に使われていた。

 すると、隣の台からけたたましい音がする。


「凄い、あんなに沢山メダルが出てきました」


 星那が指さした方向を俺も見てみるとそこにはメダルでいっぱいになった景品口があった。


 なんか、今、俺はこの子に良くない遊びを教えてしまっているのでは……?

 パチンコ店のものとは勝手が全然違うが、これで星那がギャンブルにハマってしまったら流石に申し訳ない。


「星那やっぱり、別のやつを――」


「……わあっ、回り始めました!」


 いつの間にか星那はメダルを入れて、遊び始めていた。


「これを揃えたらいいんですよね?」


「う、うん」


 星那はボタンを押していき――


「揃いました!」


 揃ってしまった。

 ただ、揃ったのは7ではなく、1番景品の少ない絵柄であった。


「スロットこういう感じなんですね……栄人さんはやってみますか?」


「いや、俺はいいよ」


「じゃあ、次行きましょう!」


 星那は出てきたコインをカップに入れて、その場から立ち去ろうとする。


「もう、いいのか?」


「はい、どういうものなのか知りたかっただけですから」


 星那はそれに……と付け加える。


「栄人さんも楽しめるものの方がいいですから!」


「星那……!」


 なんていい子なんだこの子。


「……というか、栄人さんが楽しんでいる姿を見る方が私は楽しいですし……」


「え? 何か言ったか?」


「いえ、なんでもありませんよ!」


 彼女はそう言ってニコッと笑った。


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