第15話 私が否定します
「昨日のコンビニのレジの店員さん……栄人さんの元カノさんですよね?」
「やっぱり、バレてたか」
俺は気まずさで少し俯く。
「実は私、あのコンビニのイートインスペースに居たんですよ。でも、栄人さんがレジでお会計している時、栄人さんの様子が急におかしくなったので、もしかして……と思いまして」
「あはは……流石、星那は鋭いな」
そうだ、あの時の店員は俺の元カノで幼馴染だ。
彼女の名前は一之瀬眞白……昔はまーちゃんなんて呼んでたっけ。
高校も別になった今、しばらく会っていなかったのだが不幸にも昨日、出会ってしまった。
「元カノさん……すっごい美人さんでしたね、栄人さんが少し未練を抱いてしまうのも納得です」
確かに眞白は物凄い美少女で中学では学年一……いや、学校一可愛いって噂されてたっけ。
そして、俺も俺なんかがあんな美少女と付き合えていたのはきっと奇跡か何かだと思うほど、眞白のことを可愛いと思っている。
だが……
「未練はないよ」
「嘘つかないても大丈夫ですよ? 別に気にしませんから」
「違う! 嘘なんかじゃない……俺なんかがあんな子と付き合えていただけ幸せだったんだよ。それに浮気もされちゃったわけだし……もう、眞白に思うことは何も無い。会ってもただ気まずいだけだ」
「そうですか……栄人さんがそこまで言うなら信じます。」
「ありがとう」
それに……俺の方ももう冷めてしまったしな。
流石に酷い言い方な気がして口にできないが。
そうこうしていると、パンケーキセットがテーブルに並べられる。
「凄い……美味しそうです!」
星那はキラキラとした目で苺の乗ったパンケーキを見つめる。
「さっそく、頂きましょう」
星那は丁寧にナイフでパンケーキを切り分け、パクッとそれを口に入れる。
「う〜ん! 美味しいですよ、栄人さん!」
眞白も美少女だったが、星那もそれに負けず劣らずの美少女なんだよな。
パンケーキを食べて頬を緩ませている星那を見つめながら俺はそう考える。
「ほら、栄人さんも食べてくださいよ」
「お、おう!」
パンケーキを上に乗っているバナナと一緒に口に入れる。
うん、これは美味しいな。
パンケーキはふわっとしていて仄かに甘く、上にかかっているチョコソースとバナナはマッチしていてとても美味だ。
有名なだけあるな。
「そういえば、さっきの言い方的に栄人さんは元カノさんと付き合ってた時、自分のことを魅力ないとか釣り合わないとか思っていたんですか?」
「まあ、そうだな。流石にあんな美少女とずっと一緒にいると自分に自信がなくなってくるというか……」
「でも、そんなこと無かったんじゃないですか?」
「え?」
「栄人さん、元カノさんとは何年付き合っていたんですか?」
「だいたい2年くらいだけど」
確か、中三の夏に浮気が発覚して別れたのだ。
そして、その後、俺たちは受験に集中し……話すことはほとんど無くなった。
「もし、栄人さんに全く魅力が無かったら2年も付き合っていられませんよ。どんな長くても半年くらいで終わります」
「それは……多分、俺と彼女の家同士の距離が近かったから俺の事を振れなかっただけじゃ……」
「だとしても2年は長すぎます。浮気されたから自分に自信が無くなっちゃうのは仕方ありませんが……もっと自信を持ってください。例えあなたが、周りが魅力無いと思っていても付き合っていた元カノさんは貴方に魅力を感じてだはずです」
「はずって……そんな無責任なこと言うなよ。じゃあ!じゃあ、なんでアイツは浮気したんだよっ!」
やべっ、つい、大きな声が出てしまい、周囲の注目を集めてしまっている。
それに星那に対しても折角、慰めてくれてるのに彼女を責めるなんて……俺、最低だ。
俺はすぐに謝ろうとするが
「……なんで浮気なんてするんでしょうね」
星那から予想外の言葉が飛んできた。
「今の彼氏に飽きたら振ればいいわけですから」
「確かに……そうだな。背徳感が癖になったとかなんじゃないか?」
「もし、そうだとしたらそういう人は一種の病気です。栄人さんに責任はありません」
「っ……」
「そして、そうじゃないとしたら……元カノさんは浮気相手にも……貴方にも魅力を感じていたということになります」
「え?」
「じゃなかったら普通は栄人さんとはすぐに別れてますよ。栄人さんも好きだけど浮気相手のことも好き……だから二人と付き合っちゃうんですよ」
「そうか……そっか。俺、一応、アイツに好かれてたのか」
俺は思い出す。
付き合いたての頃、一生一緒だと夕暮れ時の学校の屋上で赤面していたのを。
あの時は少なくとも彼女は俺のことを好きでいた。
「ええ、それにもし、元カノさんが栄人さんに魅力がなかったから浮気した……なんて言おうものなら私が否定します」
「え……?!」
「栄人さんには人を惹きつける魅力があります。いつも自分のことよりも私のことを真っ先に考えてくれますし、前は私の為に身を投げ打ってくれました。……そんな人が魅力無しなわけないじゃないですか」
「っ〜〜〜?!」
ああ、なんでだろう。
なんだか顔が熱い。
こんなにも自分を肯定されるのは……嬉しいのか。
俺はいつの間にかに涙目になっていた。
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