第13話 それも、元カノさんの影響ですか?



 ――ミーンミーンミーン


「アッツぅぅぅ」


 翌日、俺は冷房のきいた楽園から1歩外へ足を踏み出していた。


 にしても暑すぎる……。


「こんな日にパシらせるなよぉ……」


 なぜ、俺が外に出ているのかというと、家のトイレの灯りが壊れたからだ。

 俺は家にいる姉とのジャンケンに負け、こうして近くの家電量販店に向かっていた。


「あーあ、こんなことなら自転車使えば良かった……」


 かといって今から家に戻るのも手間だからな。

 仕方ない、このまま歩いていこう。


 そうして歩いて10分、俺はようやく家電量販店に着いた。


 だが、俺は家電量販店を通り過ぎ……隣のコンビニに立ち寄る。


「涼しっ……!」


 あまりの外との温度差にそんか言葉が零れる。

 もう、一生ここに居たい……そう思わせられる程に外が暑すぎるのだ。


 まあ、そういう訳にもいかないので俺は適当に炭酸水を選んでレジに運ぶ。


「103円になります……っ?!」


「ん?」


 俺は店員さんがなにか驚いているのに気づき、店員さんの方を見ると


「ッ……現金で」


 その人は俺が人生で、1番会いたくない人であった。

 俺はできるだけ、驚きを悟られないように淡々と答える。


 そして、財布の中からピッタリ、103円を取り出し、それを機械に投入する。


 出てきたレシートは捨て、とっとと俺はコンビニから出ていった。


 今日は本当に運が悪いな……俺はため息をつきながら炭酸水をグビっと煽り、そのまま家電量販店に向かった。


 ――――――


「ふう、なんとか買えたな」


 俺は買い物袋をぶら下げ、家電量販店から出る。

 さあ、地獄の暑さを味わいながら帰りますか。

 そうやって歩き出した時


「栄人さん?」


 横から突然、名前を呼ばれた。


「せ、星那?!」


 振り向くと、そこに居たのは星那だった。


 て、てか私服?!

 彼女は白いワンピースに麦わら帽子を被っており、とっても可愛い。

 というか、ザ・夏って感じがするし、星那の銀髪とも合っていて……死ぬほど似合っている。


「ど、どうしたんだ?」


「私はコンビニにアイスクリームを買いにきただけですよ。栄人さんは?」


「あ、ああ……実はトイレの電球が壊れちゃってな、新しいのを買いに来てたんだ」


 俺は少し、緊張しながらそう答える。

 なんというか……あまりの可愛いさに会話に集中出来ない。

 すると――


「そうでしたか……栄人さん? そんなに私のことを見てどうしましたか?」


 俺のそんな様子を星那に気づかれた。

 し、仕方がない。ここはちゃんと褒めよう。


「いや、星那の私服が凄く似合っててさ。それでつい、そっちに目が奪われちゃった」


「っ……そ、そうですか、あ、ありがとうございます」


「……」


 俺たちは二人とも恥ずかしさで顔を俯かせる。

 う、うう……元カノに女性のことはちゃんと褒めろ、と叩き込まれたのがつい、出てしまった。


「じ、実は明日、これと同じのを着ていこうと思ってたんです……けど、もう見られちゃったので明日は別の服を着ていくことにします」


「え、そんな、気にしなくても全然いいのに」


「そういう訳にもいきませんよ。洗ってない、だなんて思われたくはないですし……折角なら色んな服を見せたいですからね?」


「そっか……星那はどんな服を着ても元々が良いから似合いそうだし、楽しみにしてるよ」


「栄人さんは女性の扱いがお上手ですね」


「あはは……」


 俺は苦笑いで返す。

 なんだか、今、元カノの話を星那にするのは良くない気がした。

 だから、俺は元カノに叩き込まれた、だんなて決して口にしないように――


「それも、元カノさんの影響ですか?」


 して……いたのに。

 今、まさかその話題が上がるとは思ってもいなかった俺は硬直する。


「ど、どうしてそれを……?」


「なんとなくです!」


 ふふっと星那は笑う。

 目も口も笑っているはずなのにそう笑う彼女はどこか怖かった。


 そのせいか、暑さのせいか俺の額に汗が滲む。


「ごめんなさい、こんな所で立ち話始めちゃって……どこかに寄りませんか?」


「そうだな、今日はあまりにも暑すぎるし……俺は辺りを見渡す」


 駅が近くにあるからか、この辺りは結構、栄えており、色々なお店があるがどうしようか。


「コンビニ……なんてどうでしょうか?」


「っ……?!」


 それは不味い。

 また、あの人と会うのはできる限り避けたい。


「ふふっ、冗談ですよ」


「なんだ……」


「どうせ、明日会うのですからその時に色々話しましょう。今日は服を褒めてくれてありがとうございます。ではまた明日」


「お、おう! また明日な」


 彼女は駅の方に向かって走っていく。

 

 俺は、今日の星那の態度が不思議で首を傾げるのであった。




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