第12話 これって責任取らないといけないやつ?
「はぁぁぁ、理沙先輩は察しが良すぎてこっちが困る……」
理沙先輩にドア越しにめちゃくちゃ謝られた後、俺はベッドの上でぐったりしていた。
今日は本当に疲れた、ちょうど眠気もやってきたし……よし、このまま夜まで寝てしまお――
「栄人ぉぉぉぉぉ!!!」
「うわぁぁっ?!」
バン、という大きな音と共に扉が勢い良く開く。
俺は唐突の爆音に体をビクッと揺らして飛び起き上がる。
「ね、姉ちゃん?」
俺は寝ぼけ眼をこすり、ドアの方を見るとそこには制服姿の姉がいた。
「ど、どうしたの? そんなに急いで」
「どうしたの、じゃないよ! あんた、他人の彼女を誘拐したんだって?!」
「はぁぁぁ?」
誘拐?
本当に言ってる意味がわからない。
「やったんでしょ?誘拐? ねえ、その子は今、どこに居んのよ! まさか、この家に……」
姉ちゃんはそう言い、俺の部屋のクローゼットや机、ベッドの下を覗く。
「あら、この部屋にはいないのね。ま、まさか、私の部屋に……」
「居ないよっ! いい加減にしてくれ、俺は誘拐なんてしてない。ただの噂だ!」
「でも、私の友達はあんたが校門で超ダサい言葉でナンパした後、その子の彼氏さんに見つかった瞬間にその子の手を引っ張って連れ逃げたって言ってたわよ」
「違う違う違う! 確かに超ダサい言葉でナンパしたけどあれにはワケがあって……それに俺がその子の手を引っ張ったんじゃなくて、その子が俺の手を引っ張ったんだ」
「い、いやそれは流石に嘘でしょ。それだとその子はあんたのことが好きってことになるわよ? 有り得ない有り得ない」
「おい、誰がモテないって?」
いや、確かに星那は俺のことが好きだからナンパ受けたわけじゃないと思うけど。
そうこうしていると、姉ちゃんは急に真面目な顔になる。
「でもさ、火のないところに煙はたたないのよ? 何が起きたのか栄人の口からちゃんと教えてくれない?」
「わかったよ……まず、最初に俺はクラスのヤンキーみたいな陽キャに目つけられて――」
俺は事の詳細を姉ちゃんに伝える。
まあ、姉ちゃんなら下手に誰かに言いふらすようなことも……ないだろ。
「はーん、それであんたは人の彼女を寝とってきたのね」
「ねえ、人の話聞いてた?!」
「冗談よ……でも、その子も随分と強引なことするわねえ」
「え?」
「その子の彼氏の日野君……お父さんが結構大きい会社の社長さんでさ。日野君、それを盾にしてて教師も含めて誰も彼に文句言えないのよ。だからこそ、好きに荒れまくってたらしいけどね」
「あ〜」
だから盗撮とか、暴力とか平然とやってきたのか。
「まあ、日野君と喧嘩してきたあんたはよくわかってるわよね」
「な、なんで……?」
俺は頭の中が真っ白になる。
俺はそこまでは話してないはずなのに……。
「あのねぇ、噂っていうのはすぐに伝播していくもんなのよ。もうどこも今は、あんたが喧嘩で日野君から彼女を奪い取ったって話で持ちきりなのよ」
「マジですか……」
ヤバい、夏休み終わったあと学校に行きたくない。
今まで息を殺して静かに無害キャラとして過ごしてきたのに周りから注目されてしまうなんて……。
絶対、誰かに絡まれる。
「まあ、でも、さっきの話だと彼女さんは元々、日野君から酷い扱いを受けてて彼が嫌いだったんでしょ? まあ、それならあんたが付き合うことになって良かったわね」
「うん? つ、付き合って……?」
付き合う?
……えっと、彼氏と彼女になるあの付き合う?
「なによ? あんた、まさか、その子と付き合ってないの?! 嘘でしょ?」
「いやいやいや、付き合ってないよ! 俺と彼女はただの友達だって……」
「そ、そうだったのね……でもね、多分、みんな、あんたとその子はもう付き合ってるって思ってるわよ」
「え?」
「だって、あんたが日野君から彼女を奪ったんだから、新しくあんたがその子と付き合う事になったって思うに決まってるじゃない」
「……」
そ、そうか、だから星那はあの時、俺と彼女の関係を恋人だと偽ったのか。
どうせ、もう周りからは付き合ってるって思われてるだろうから。
「ねえ、これってさ、責任取らないといけないやつ?」
「当たり前でしょう」
どうやら、俺はもう彼女から離れられない運命にあるらしいです。
……もう、疲れた、寝たい。
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