第11話 勘のいいガキは嫌いだ



「たっだいま〜」


 俺はヘロヘロな状態で倒れ込むようにして帰宅した。


 返事は帰って来ない。

 そうだ、親は共働きで二人とも夜遅くに帰ってくる。

 一応、俺には姉がいるが、今日は部活に行ってから帰るらしく家には誰も居ない。


「おっかえり〜」


 はずだよね?

 では、なぜ俺は今、返事が聴こえたのだろうか。


 俺はとりあえず、気のせいということにして床に床にカバンを置きに自分の部屋へ――


「え? ノーリアクション?!」


「あの、警察ですか? 今、帰ってきたら家に変な人が居て……」


「そして、流れるように通報しようとしないでっ! 私だよ私!」


 俺はリビングのソファーの方を見るとそこにはだらけた姿の女性が寝っ転がってテレビを見ていた。

 いや、休日の父親かよ。


「理沙先輩こんにちは。今日も姉ちゃん待ちですか?」


「うん、勿論! 君のお姉さんの部活が終わるまでお邪魔させてもらってまーす」


 彼女は俺の姉ちゃんの友達の理沙先輩。

 彼女は姉ちゃんと親友らしく、ほぼ毎日のように家に来ている。


 もうガチめに付き合ってる?


 まあ、色々とワケがあるみたいだが。

 ただ、流石に今日みたいな疲れた日は鬱陶しく……


「そうだ、弟君の分もプリン買ってきたけど食べる? 駅前の結構、美味しいお店のやつなんだけど――」


「食べます」


「返事はやっ」


 鬱陶しくとか全く感じません、ええ。

 家に来る度にスイーツとかを色々買ってきてくれ、それを俺にも恵んでくれるため俺はこの人が結構、好きだ。


 それも、選ぶセンスがいいんだよなぁ。

 姉ちゃんとは大違いだ。


「プリン冷蔵庫にあるからどうぞ〜」


 俺はカバンを部屋に置いて、服を着替え、手を洗うとすぐにプリンを取り出して、それを口にする。


「くぅぅ……うめぇ」


 カラメルソースが濃厚でそれがプリンに実によくマッチしている。

 俺はバクバクとプリンを食べ進めていると


「ところでさ。野暮かもしんないけど弟君はなんでそんなにボロボロなの?」


「え?」


 理沙先輩からそうきかれた。


「『え?』じゃないよ、君、さっきまで三徹した上に上司にパワハラされたサラリーマンみたいな顔してたよ?」


「なにその不幸の役満みたいな状況」


 それはもう死ぬ寸前だろ。


「まあ流石にそこまでは冗談だけど……もしや、喧嘩でもしてきた?」


「……ノーコメントで」


「それってコメントしてんじゃん。そして、そう言ってる時点で肯定してるよ?」


 す、鋭い……だと?!


「でも、そっかぁ……弟君、やんちゃになっちゃったんだ」


「いや、違いますからね? これは仕方がなかったんですよ。自衛の結果です」


「む……そっか。弟君にも喧嘩できるくらいの相手ができたんだと思って私、嬉しかったのに」


「それ、遠回しに俺が今まで友達いなかったこと煽ってます?」


「あ、ということは友達できたんだ」


 やべ。

 この人にバレたらめんどくさい事になるのに……。


「ま、まあ……相手がそう思ってくれてるかはわかんないですけどね。でも、その人とはさっき、一緒にファミレス行きました」


 俺が少し得意げにそう報告すると――


「ふぅん、女の子か」


 理沙先輩からは予想外の言葉が帰ってきた。


「っ……?!」


 なんでバレた?

 極力、星那の情報は伏せて話したのに……。


「え、嘘っ、本当に女の子なんだ」


 違う、嵌められたのか!


「そっか、ようやく弟君にも春が来たんだね……嬉しくてちょっと泣いちゃうかも」


「いや、そういう関係になったんじゃないですけどね?!」


「でも、2人きりでファミレスデートでしょ? そんなの相手は好意持ってくれてるに決まってんじゃん!」


「そういうもんですかねぇ?」


「そうだよそう!……それじゃあ、その紙袋と水筒もその女の子から貰ったの?」


「え?……ああ、これですか」


 俺は机の上に置かれた紙袋に目をやる。


「ていうかその紙袋、最近人気のパン屋さんのとこのじゃん! 開けてみてよ」


「ええ……」


 理沙先輩がソファーから起き上がる。

 俺もこの紙袋の中身に関しては何にも聞いてなくて、気になるからいっか。


 俺は中身を開けてみた。


「パンと……手紙?」


「へぇ、ちょっと古風なやり方だねぇ」


 いつの間にかに隣に来ていた理沙先輩がそうコメントする。


 俺はそんな先輩を気にせず、手紙を見てみる。

 そこには……『今日のことのお詫びです。迷惑をかけてしまった私ですが、月曜日はよろしくお願いします。もし、嫌になったのなら連絡ください』


 と書かれていた。


「なんというか……凄いちゃんとした子だねぇ」


「ええ、そうなんですよ……って、勝手に覗くのは良くないですよ」


「ごめんごめん……でも、今日何かあったの? この子、謝ってるけど」


 勘のいいガキは嫌いだ。

 俺は無視を決め込む。


「もしかして、さっき言ってた喧嘩って、その子のことが好きな別の男の子と喧嘩したとかなの?」


 勘のい(以下略)

 俺は無視を決め込み続ける。


「え? ちょっと何か言ってよ! もしかして本当にそうなの? 嘘でしょ? そんなドラマみたいなことある?!」


 俺は紙袋を持って、理沙先輩を無視して自分の部屋の扉をバンっと閉めた。

 ゲームでもして気を晴らそう。


 ちなみに、この後めちゃくちゃ謝られた。

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