第10話 ええ、いいですけど?
「大丈夫ですか?! 栄人さん!」
ヤンキー男もその仲間も皆が去っていった後、俺は安心して壁にもたれかかっていた。
すると、星那が駆け寄ってきたのだ。
「大丈夫だって、ちょっとお腹が痛かっただけだから」
「ちょっとじゃないですよ、あんなにストレートにお腹にパンチを貰って……それに首も締められていたじゃないですか!」
「い、いや、それも時間が経てば直る――」
「いいから、私に着いてきてください!」
――――――
「それで、今はどこに向かってるんだ?」
そうして、俺はヤンキー男らとのいざこざが終わった後、星那に手を引かれていた。
だが、行先を聞いても
「それは秘密です」
と言われてしまった。
俺はこの後も予定がないからいいが果たしてどこなのだろうか。
色々とあった後だからこれ以上の面倒事は流石に勘弁して貰いたいのだが……。
「着きました」
そこはオシャレな雰囲気のカフェだった。
ここは少し人通りの少ない通りであり、まるで知る人ぞ知る店といった感じがする。
「凄いオシャレなお店だな」
「そうですか? ありがとうございます。では、私は物を取りに行ってくるのでちょっと待っていてください」
「お、おう?」
彼女は俺にそうとだけ告げて店の中に入っていく。
物を取りに行ってくる?……どういう意味だろうか。
しばらくすると、星那が水筒と紙袋を持って帰ってきた。
「すみません、お待たせしました。本当はちゃんと病院に行くべきなんですけど、とりあえずこれをどうぞ」
彼女は水筒を手渡してきた。
蓋を開けてみるとボワッと湯気が出てきた。
「はちみつレモンです。栄人さんはさっき首を締められていたので喉に良い飲み物としてこれを持ってきました。夏バテ対策にもなるのでどうぞ飲んでください」
「お、おう、ありがとう」
待った、つまりこのカフェは……。
「ねぇ、もしかしてここって星那の家?」
「そうですよ、言ってませんでしたか?」
いや、秘密って言われたからね。
すると、彼女はくすりと笑う。
「すみません、ちょっとからかっちゃいました。ここは私の父親が経営しているカフェ兼パン屋なんです」
星那の父親……?
「星那の父親って別の会社で働いてるんじゃ……」
「それは今年の1月までの話ですね。私の父親はサラリーマンに疲れちゃってこのお店を祖父から引き継いだんです」
「そう……なのか」
そっか……。
なら、うちの父親に伝えてみようかな。
星那の父親にはよくしてもらってたみたいだし、多分会いたいだろうからな。
「それはそうと、早くはちみつレモン飲んでください」
「お、おう」
俺は星那におされて流石に水筒の中のはちみつレモンを口にする。
……うん、懐かし味。
喉に効くなぁ。
「ありがとう、本当に助かったよ」
「いえ、元はと言えば私のせいですから」
そんなことはない……と、言おうとした時。
「あら、星那ちゃんじゃないの」
突然、後ろから聞こえきた声に俺は振り向く。
そこにはスーツを着た20代くらいのOLが居た。
「あっ、麗華さん。こんにちは!」
星那がその人に軽くお辞儀をする。
「あれ、お隣の人はもしかして星那ちゃんの彼氏さん?!」
OLさんは俺を見て驚いたようにそう言った。
いや、流石に俺では彼女に釣り合わないだろ。
星那に失礼――
「はい、そうなんですよ」
ほら、星那も嫌そうに否定して――
はい? 今なんて?
「えー! じゃあ、あの金髪クズ男とは別れたのね。お姉さんほんとに安心したわぁ……じゃあ彼氏さん、これから星那ちゃんのことよろしくね?」
「へ……は、はいっ!」
やべ、反射で返事が。
「ほんとはもっと色々聞きたいんだけどお姉さん、この後用事があるから……じゃあねー!」
そう言ってOLさんは走り去っていった。
最後に『お幸せにー!』と言って。
いや、やかましいわ。
「って、星那、良かったのか? あんな誤解されたら星那が困るんじゃ……」
「いえ、それは大丈夫です。けど、すみません。栄人さんのことは彼氏と言った方がこれから楽だっと思って……本当にすみません。勝手に栄人さんが困る嘘をついてしまいました」
そう言って彼女は頭を下げてくる。
いや、俺としては別に構わないし、脅されたとはいえ、ナンパしたのだから勝手に彼氏にされようと文句は言えないが……星那の方が心配だ。
「えっと、星那の方はいいの?」
「ええ、いいですけど?」
え、いいんだ。
ま、まあ、あのヤンキー男の次であればたとえどんな人であったとしてもマシに見えるか。
――――――
段々、投稿時間が遅くなってきてる……。
すみません。
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