第7話 全てを精算しに来たんです




「あのクソアマ絶対にわからせてやる……!」


 俺、日野健人は苛立ちで拳をぐっと握りしめる。

 遡ること少し前……。


『――なので今、ここで貴方と別れます。短い間でしたがありがとうございました』


 そう言って俺がけしかけたオタク野郎のナンパを承諾し、俺を振ってきた星那。

 それも、よりによって校門の前でだ。


「クソアマがッ! 俺をコケにしやがって……」


 見つけたらどうしてやろうか。

 そうだ、アイツの父親は俺のオヤジの会社で働いてたよな。


 それならにアイツの父親の悪評をオヤジに伝えるって脅してやろう。

 それで今度こそぶち犯す……絶対に。


「おいッ! お前らまだアイツら見つかってねぇのか?!」


 だが、中々アイツらは見つからない。

 クソがっ……逃げた方向から公園だと思ったんだがもう別の場所に移動していたみたいだ。


「す、すんません。でも、今、アイツらがファミレスに入ったっていうタレコミがあって……」


「じゃあ、そっちに行くぞッ! タラタラすんな!」


 そうしてタレコミのあったファミレスに俺たちが着くとその近くには中学からの悪友たちがいた。


「ん? なんだよ、なんでお前らがいんだよ……まさかこの俺を笑いにでも来たのか?」


「そんな冷てえこと言わないでくれよ。兄貴があのクソアマに恥じかかされたっていうから俺たちも居てもたっても居れなくなっちまってよォ。そんでタレコミのあったこのファミレスを見張ってたってワケ」


「チッ、んだよ。みんな知ってんのかよ……尚更、あのクソアマを許せねぇなぁ」


「よっ! 兄貴はそうでなきゃ!」


「カチコムぞ、お前らぁ!」


 俺は悪友たちも連れてファミレスに入ろうとする。

 全員で、俺たちは7人……あのオタク野郎が居ようが絶対に俺たちには勝てやしない。


 俺はファミレスの扉の前に立ち――


「今更、後悔しても遅せぇぞ! クソアマぁぁぁぁ!!」


 そのままドアを蹴り開ける。


「は?」


 そう、蹴り開けたのだがそこに居たのは


「星那……」


「ええ、何か用ですか?」


 あの、星那だった。


「ふ、ふはははっ! 勝てないと悟って大人しく自首しに来たのか?! いい心構えじゃねえか――」


「違いますが」


「あン? なんだ、俺たちとやり合おうってか? 随分俺もお前に舐められたもんだなあ……」


 俺は感情任せに星那の胸ぐらを掴もうとする。

 が、その手をパシっと星那は払い――


「いいえ、違いますよ。私は――全てを精算しに来たんです」


 光ない目で彼女はそう言った。



 ――――――



「ですから栄人さんはどうか、トイレなどに隠れていてください。そうしてくれれば全て私がどうにかしますから」


「いやいや……あんなのどうにかするって君1人でどうにかできる問題じゃないよ!」


 俺はヤンキーたちがファミレスに突入してきそうな状況を前にして突然、変なことを言い出した星那を説得していた。


「なんとか出来ます……それにこれは全部私が勝手にやったことなんです。アイツの思い通りに私が動いていれば栄人さんがあの人に狙われることは――」


「でも、もうそうだったら星那はどうなるんだよ」


 もし、そうしていたら今後も彼女はずっとアイツの言いなりとして生きていかないといけない。


「え?」


「君は元々アイツと付き合うのが嫌だったんだろ? もしあのままだったら君が代わりに犠牲になる」


「そう……かも知れません。けど――」


「星那、もう俺たちの運命は交わってしまったんだ。今更、どっちかの為にどっちかが犠牲になるなんて出来ない」


 だから、もう誰も勝手に背負って勝手に居なくならないでくれ。

 俺は切にそう願っていた。


「……わかりました。でしたら栄人さんは入口の近くで隠れていてください。結局、これが私の問題であることに違いはありませんから……それに怒っているところなんて、誰しもあまり見せたくもないですからね」


「わかった……けど気をつけてくれ」


 そうして、俺は物陰から彼女を見守る。

 小学校以来、初めてできた友達……それを俺は絶対に失いたくなかった。



 ――――――


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