第6話 私たちの方から会いに行ってやりましょう




「では、栄人さん。早速、3日後にどこかへ出かけませんか?」


 連絡先の交換が終わった後、彼女がそう、提案してきた。


「3日後……わかった、空けておくよ」


 空けておくよとは言ったものの、夏休みにバイト以外の予定なんてほとんど無いんだけどね。


 そして3日後の月曜日はそのバイトすら無かった。


「でも、一体、どこに行くんだ?」


「うーん、折角なら夏にしか行けない場所が良いですよね」


 夏にしか行けない場所……俺は真っ先に海やプールが思いつく。

 が、流石に知り合って間もない男女がそういう場所に行くのはハードルが高すぎるだろう。


「いや、まずは親交も含めて馴染みがある場所がいいかな……」


「わかりました、それではゲームセンターなんかはどうでしょう?」


「ゲーセン?」


 確かに馴染み深い場所だが、その場所を彼女が提案してくるのは少し意外だった。


「ええ、私、実はこう見えて結構、ゲームが好きなんですよ」


「そうなのか?!」


「でも、ゲームセンターには恥ずかしながら1人じゃ中々足を踏み入れられなくて……」


 確かにゲーセンに女子が1人で入るのは少し怖いか。


「わかった。俺も最近はあんまり、ゲーセンに行ってなくて久しぶりに行きたかったから丁度良かった……けど、ゲーセンなんかでいいのか?」


「ええ、もしかしてゲームセンターに行くくらいじゃあ元カノさんのことを忘れるという、目的を果たせないとお考えですか?」


「ああ、少しね」


「心配には及びません、例えゲームセンターでもどこであっても誰かと行くということが大切なんです」


「誰かと……」


「人によって植え付けられた劣等感を晴らすためには他の人の力を借りるのが1番だと私は思ってますから」


 そっか、俺は彼女に浮気されたことによって自信を失った。

 そして、それを取り戻すためには誰かに自分のことを肯定してもらうのが1番だということか。


「それと、単に私が栄人さんと一緒にゲームセンターに行ってみたいというのもあります。どうです? 来てくれますか?」


「と、当然だよ」


 彼女と一緒にいるのは楽しい。

 だから俺は例えどこであってもついて行くつもりだ。


「ありがとうございます! そうだ、代わりに次にどこに行くかは栄人さんが決めてもいいですよ」


「いや、いいよ。俺は星那の決めた場所だったらどこでも楽しめると思う……」


 俺がそう口にしていると、視界の端に見た事のある金色の頭が見えた。

 俺は目を凝らしてそれを見てみると、やはり、それはあのヤンキー男の頭であった。

 周りには他の仲間たちもおり、どうやら俺たちを探しているようだ。


 不味いな、こんな所まで追ってきているなんて……。


「でも、それじゃあ栄人さんにお返しできません……栄人さんは私になにかして欲しいことはありますか?」


「星那」


 俺は短くその名前を呼び、急いで彼女の手を掴む。


「っ〜〜?! ど、どうかしました?! もしかしてそういうのですか?!……まだ心の準備が……」


「アイツらが来てる」


 俺は窓の外を見ながらヤンキーたちを指さす。

 アイツらは俺たちを探すために今にでも建物に入ってきそうだ。


「……ああ、あの人達ですか」


 その声色はまるで氷のように冷たいものであった。


 あの星那さん?

 アイツらが嫌いだからといってもテンションの下がり幅が激しすぎませんか?


「丁度、いい所だったのに……絶対許さない」


 その言葉はいまいち聞き取れなかったが、彼女はまるでゴミを見るような目つきをしていた。


 そうこうしていると、ヤンキーたちが階段を上り始める。


「どうやら、階段を上ってこの建物に入ってくるつもりのようですね」


「どうしよう、このファミレスに逃げ場なんて……」


 見た感じだと明らかに1つしか出入り口は――


「あった。あっちに非常用出口階段がある」


「栄人さん」


 俺は短く名前を呼ばれる。


「それだとお会計をしてる間に捕まってしまいます。それに貴方は顔も名前もあの人たちにバレているのですから逃げてもいずれ学校で酷い目に遭ってしまいます」


「だとしてもこのまま見つかるわけにはいかないだろ?」


 確かに今後、学校で大変なことになるが少なくとも夏休みの間は平穏が訪れる。

 それに、ここで争えばきっとお店の方にも迷惑がかかる。


 俺の言葉を聞いた彼女は――


「でしたら、私たちの方から会いに行ってやりましょう」


 くすりと笑い、そう言う。


 けれど彼女の目は全く、笑っていなかった。

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