第5話 呼び捨てなんて破壊力高すぎます




「でも、俺を立ち直らせるって具体的に何をするんだ?」


 俺は少し冷めてしまったたらこパスタを口にしてから彼女にきく。


「そうですね……まず、するべきなのが元カノさんのことを早く忘れることですね」


「忘れる……ね」


 俺には確かに未だ、あの時の記憶が深く残っている。


「そのためにオススメなのが新しいことを始めてみることです」


「新しいこと?」


「ええ、趣味やスポーツなどです。新しく恋愛するのもいいと思いますけど……その様子だと難しそうですからね」


 確かに、今の俺に誰かと恋愛できるほどの余裕は無い。


「といっても俺にも簡単に始められる趣味なんてあるのか?」


 今の俺の趣味なんてゲームにアニメ鑑賞、ラノベに漫画くらいだ。

 そんな俺に新しく始められるものがあるだろうか。


「ありますよ。今すぐにでも簡単に始められるものが」


「本当か?!」


「ええ、それはですね――私と一緒に色々な場所に行くことです」


「君と一緒に?」


 その答えは意外と一般的なものであった。


「ええ、きっと栄人さんは『なんだ、大したことじゃないじゃないか』と思ったかもしれませんが……栄人さんは高校生になってから友人と一緒にどこかへ出かけたことはありますか?」


「それは……ない」


 俺は元々、インドアであったり、友人が少なかったりしていたため、幼馴染以外とはほとんど外で遊んだことがない。


 そして、幼馴染と別れ後は今までにさらに拍車がかかって家に引こもるようになっていたのだ。


「案外、気が許せる相手とどこかへ行くというのは楽しいものなんですよ」


「そうか……」


 確かに盲点だったかもしれない。


「栄人さんは私と今日、こうやって話していて楽しかったですか?」


「それは勿論楽しかったよ!」


「でしたら今度、どこかに一緒に出かけませんか?」


「待って、それって恋人同士とかがやるものなんじゃ……?」


 つまることろ、それはいわゆるデートと呼ばれるものなのではないのか……?。


 すると、俺の言葉を聞いた彼女の顔が曇る。


「栄人さんは嫌……でしょうか?」


「いやいや、そんなことないよ。むしろ俺にとって、君と一緒に出かけられるなんて得でしかないよ」


「ふふっ、お世辞がお上手なこと……とにかく、これで決まりですね。 」


 なんか、上手いこと乗せられたような気もする。

 でも――


「君は優しいな」


星那せなです」


「え?」


「私の名前ですよ。せっかくなら、星那と呼んでください」


「わかった……星那は優しいな。ありがとう」


「っ〜〜?!」


 星那は顔を少し赤らめ、口をパクパクさせる。


「突然の呼び捨てなんて……破壊力高すぎます……」


「どうかしたか?」


「い、いえ、なんでもありませんよ」


 彼女はコップを手に取り、水を口に含む。


「ふぅ……では、連絡先を交換しましょうか。これから色々とメールでやり取りしないといけないことも多くなるでしょうから」


「れ、連絡先……」


 幼馴染以外の女子の連絡先なんて交換するの何時ぶりだろうか。

 いや、初めてかもしれない。


「ええ、私たちはもう、友達になったようなものなんですよ。連絡先の交換くらい当然でしょう?」


「わ、わかった……ええっと、どうやればいいんだっけ」


 俺はスマホの中のメッセージアプリを開いてみたものの友達追加の機能を長い間使っていなかったため、そこから先がわからなかった。


「えっと、ちょっと見せてもらってもいいでふか?」


「ああ、この画面からどうしていいかわからなくて……」


 俺は友達の名前が連なっている画面を見せる。

 画面には俺の家族の名前と公式アカウント、それとあの幼馴染の名前が映っていた。


「貸してください」


 すると、俺がそれを見せた瞬間、星那の表情が険しいものに変わる。


 俺は思わず、スマホを彼女に手渡した。


「一応、聞いておきますが元カノさんに未練とかはありませんよね?」


「も、勿論っ! てか、アイツのことを忘れるためた星那に協力してもらってるんだから当然だ」


「でしたら、元カノさんの連絡先消しちゃってもいいですね?」


「お、おう」


 彼女は俺がそう答えるや否や、手慣れた手つきで幼馴染のアカウントをブロックし、削除する。


 なんだか、いつもと違ってその言葉には強い圧が感じられた。

 俺がそう思っていると彼女は理由を説明してくれる。


「メッセージアプリを開く度に元カノさんの名前が見えては忘れられるものも忘れられなくなっちゃうでしょう?」


「それも……そうか」


 あの時、以来彼女からメッセージが来たことは一度もなかったが、確かに残しておくのも気持ち悪いな。


「ついでに私のアカウントと友達登録しておきましたよ」


「おう、助かるよ」


 星那から渡された俺のスマホの画面には彼女のアカウントが映っている。


 彼女のアイコンは綺麗な夕日であった。

 そしてその下にセナとカタカナで書かれている。


「へえ、栄人さんのアイコン、初期設定のままじゃないですか」


「あ~、俺、メッセージアプリとかあんまり使わないし、なんの画像を使えばいいのかわかんなくてさ」


「ふぅん……そうだ、私、いい感じの画像持ってますけど使いますか?」


「本当か! それなら是非頼む」


 彼女がスマホを少し操作するとピコン、という通知音と共に俺のスマホに画像が送られてくる。


「はい、もう送りましたよ」


「どれどれ……おお、これはいいな」


 それは月が地平線から上る様子の写真だった。

 背景の月光を反射する海がより、月の美しさを強調している。


 流石、星那のセンスだな。

 俺はすっかり、その画像が気に入り、早速、アイコンにした。


 その写真が、星那のアイコンの写真と同じ場所で撮られたものだと気づかずに。






 ――――――


 ヤンデレって色々種類ありますが、果たして星那ちゃんは……

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