つめたいちょっとした思い出

ラジオ・K

つめたいちょっとしたおもいで。

 世間は仕事納めというらしいので、ちょっとした昔話を語ります。

 2020年の本日、私は(今の境遇からすると信じがたいことに)正社員でした。

 この頃私は睡眠障害をどうにか治療し、6月から11月まで休職を経て復帰し、中断していた研修を一人でこなしながら過ごしていました。

 一人で、研修。

 中断していた、研修。

 当時はコロナ禍全盛期であったので中断される前はテレワークの研修です。それを出社して、一人で黙々とやるのです。

 周囲はチームで仕事する中、一人研修ビデオを観て、ノートをとって。

 人間関係はありません。

 同期は皆出荷、もとい各所に派遣されています。

 入社式ぐらいしか会っていません。

 顔もわかりません。性別だってあやふや。LINEグループはあれど皆本名で登録していないので誰が誰だか。そもそも殆ど機能しておりません。たまに投稿したと思えばそれは「退職(転職)の知らせ」。

 直属の上司はもっとわからない。

 顔も声も知らない、そんな人に毎日定例の報告をする。

 ただそれだけの関係。

 そうでない上司――顔と名前は一致する程度――は命令系統が別であり、(時代背景的に)一緒に食事とかしたことがなく……つまりは何かを相談したりする人、適当な愚痴を言い合ったり励ましたりする人、そういった概念は私の社会人生活にありませんでした。

 言うなれば孤独でした。

 とある日「ちゃんと挨拶をしなさい。そうすれば徐々に受け入れられていく」という内容を「アドバイス」され、頑張ったことがあります。

 結果、「ちゃんと行動の改善ができる」と褒められました。

 それだけでした。

 孤独はかわりませんでした。


 あまりにも情けないのですが、それを一番感じたのがこの日……仕事納めの日でした。


 当日、私はいつも通りのスケジュールで研修を受けようと仮初のデスクに向かっていました。


 異変は昼を超えたあたりにおきました。


 誰も昼食を取りません。


 代わりに誰もが仕事の片づけをし始めます。


 「?」と思っている間に、とある人(恐らく専務)が立ち「今年一年お疲れ様で……」というような内容を話し出しました。


 結論から言うと、14時で会社が閉まりました。


 何も知らなかった私はその10分前に大急ぎで片付け、周囲が盛り上がる中、一人で退社しました。


「私は――この会社の一員ではない」


 そう思いながら。


 涙とか、そういうたぐいのものは出ませんでした。

 

 枯れていたのでしょう。


 当時の私は一体何が悪くて、そもそもどこで間違えたのでしょうか。


                                   END



 追記

 その会社とは翌年、「皮膚病の悪化により貴方はマスク装着ができない。感染リスクを高める人間に任せる仕事はない」という大変つまらない理由により自主退社となりました。

 その会社は今でも存続しており、私はそれ以降正社員にはなれていません。

 ずっと転んだ状態で一生を終えるのでしょうか?

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