第105話 皇子と逃げ出しましたが、敵の騎馬隊が追いついてきました

私達は厩で2頭の馬を奪取して逃げ出したのだ。


追いかけてきた兵士達にはゴードン先生が爆裂魔術をお見舞いしていた。


怯んだ隙に逃げ出したのだ。


しかし、クリフの馬はホワイトでないので、どうしてもスピードが出ない。


「キャっ」

「気をつけろ」

人に叫び声を上げさせながら、私達は逃げたのだ。

人通りの多い街の道を人に注意を払いながら逃走する。


「おい、いたぞ」

「あれだ。追いかけろ!」

しかし、後ろからは騎兵が、わんさかと出てきた。


それを街の入り組んだ路地を曲がりながら走ってなんとか逃げるが、


「ギャ」

ドカーーーン


時たま後ろに向けてゴードン先生が爆裂魔術を放ってくれて騎馬を牽制する。


なんとか、私達は街道に達したのだ。


私達は大きい道ではなくて、私が帝国に行くときに通った道、森林地帯を山越えする道を走った。


こちらなら、まだ追いかけてくる敵は多くないかなと思ったのだ。


しかし、馬はいつまでも全力では走れない。


それにこの馬は普通の馬だった。


時速も人を乗せて10キロあるかどうか、本当にホワイトに比べると遅い。


しかし、普通の馬なのだからそれは仕方がなかった。


休み休み行く。


「大丈夫か、アオイ」

「うん、今のところ大丈夫」

私はクリフの温かさを後ろに感じられて嬉しかった。


「どうした。嬉しそうにして」

「えっ、ううん、なんでもない」

私は首を振った。


「そんな事無いだろう?」

なおもクリフが聞いて来るので、


「初めて会った時みたいだって思ったの」

「ああ、帝国に連れて来た時か。あの時もこんな感じだったな」

「うん、クリフが釣りをしてくれて、私が火を起こすの」

「ああ、そんなこともしたな。今回はそんな暇はないけれど」

私の言葉にクリフが頷いてくれた。


なんか嬉しい。


これが私のこの世界の日常だった。逃げているにも関わらず、そんな事を考えた。


「でも、殿下、馬のことを考えるとそろそろ休ませませんと」

「そうだな」

後ろからのゴードン先生の言葉に私達は少し広い所で馬を休ませた。


出来たらすぐにももっと遠くに行きたい。でも、馬も休ませないと長距離は無理なのだ。


クリフが馬に水を飲ませてくれた。


直ぐ傍に木の実が成っている。なんか美味しそう。


「食べるか」

私が物欲しそうに見ていたのか、クリフがその木の実を取ってくれて私の口の中に入れてくれた。

「美味しい!」

私は喜んだ。

なんか久しぶりの食べ物の気がする。


「ずうーーーっと薬で眠らされていたのか?」

「だと思う。気づいたら凛がいて」

クリフが心配そうな声で聞いて来たので答えたら、


「遅くなってすまなかった。この3日間はアオイの居所を探すのに大変だったんだ。

当初、アオイが側妃のところから帰ったという報告が側妃から出ていたんだ。レナと一緒に部屋を出て、お忍びで街に降りたと。『アオイ様は殿下に振られたととても落ち込んでおられて商人の家を紹介しました』と言いやがったんだ」

忌々しそうにクリフが言った。


「慌てて、その商人の家に様子を見に行くと来ていないと言うんだ。尋問するのにも時間がかかって、そうしたら、孫の様子がおかしいと前ポウナル公爵夫人から連絡があって、側妃を尋問したんだ。

側妃のやつなかなか本当のことを言わないから、思わず殴り倒すところだった」

憎々しげにクリフが言った。


「ゴードン爺が催眠魔法をかけると脅して慌てて話し出しやがったんだ。でも、ゴードン爺は、いつ、催眠魔法を学んだんだ。前はできないって言っていたような気がするが」

クリフが聞いていた。


「クリフ様もまだまだですな。あのような古狸、脅しようはいくらでもございます」

笑ってゴードン先生が教えてくれたんだけど。


「なんだ、ゴードン爺はやっぱり催眠魔法は出来ないのか。あれだけ自信満々に、何でしたら裸踊りでもさせてあげましょうかと言われた側妃の顔が見ものだったぞ」

クリフが笑って教えてくれたのだ。


「それよりも殿下、何かが迫ってきているようですな」

ゴードン先生が立ちあがった。


「もう追いついて来たのか」

クリフと私も慌てて立ち上がった。


私達は馬に乗ると軽く駆けだした。

後ろをクリフの隙間から見ると木陰から騎馬に乗った兵士たちが見えた。


「クリフ、このスピードだとすぐに追いつかれない?」

私は心配になって聞いた。

「しかし、全力で走らせると馬もすぐに疲れるからな。敵も全力は出せないと思うんだが」

「そうだ、ヒールすればいいでしょ」

クリフの言葉に私は思いついた。


「馬にも効くのか」

「やってみないと」

私は心の中で準備すると

「ヒール」

と叫んでみた。


私が金色に光ってその光が馬を包む。


「ヒィヒーーーーン」

馬がいなないてくれた。


「アオイ、うまくいったぞ」

「本当だ」

私はゴードン先生の馬にもヒールした。


「さすが聖女様は違いますね」

私達の馬は早くなって敵を引き離したのだ。


でも、ヒール効果はいつまでも続かなくて、その日の夕方にはまた、追いつかれてしまったのだ。


ブスリと弓が私達の傍の木に突き刺さった。


「おのれ!」

後ろに向かってゴードン先生が爆裂魔術を放つ。


しかし、木が多くてなかなかうまく当たらない。


馬も大分疲れてきたみたいだ。


そんな時だ。前にもアリストンの兵士達が見えたのだ。


「前にも回り込まれたのか」

クリフが舌打ちした。


私達は挟み込まれた形になってしまったのだ。


前の兵士達は剣を構えている。その後ろには弓矢を持った兵士達が並んでいた。


やばい、私は命の危険を感じたのだ。

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本日もう一話投稿します


評価等して頂けたら幸いです。




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