第88話 クリフにキスされてしまいました

それから毎日学園を終えて帰ってきたら、マイヤー先生の特訓になった。


何しろ謁見の日まで時間がないのだ。それも私が余計なことを言ったばかりに、厳しさは3倍位になっているんだけど。もう止めてほしい。


それでなくても授業でへとへとなのに、更にへとへとになって、部屋に帰ると即座にバターンキューの日が続いた。


学園までの送り迎えは、流石に副騎士団長がしてくれることはなくなったが、それに準じる人達が送迎に付き添ってくれるんだけど。


近衛騎士団のイケメンが交代で会えると、迎えてくれるポーラ等には好評だった。いつの間にかコニーとシンシアも私の友達ヅラして出てくるんだけど、こいつらは絶対に近衛騎士狙いだ。

毎回必死にアプローチして撃沈している。

まあ、元気なのは良いことだけど。私もそろそろ相手を探さないといけないんだろうか?

「もっとも、私なんか、地味な顔じゃなかなか相手になってくれる人はいないわよね」

「えっ、あなたの婚約者は?」

ポーラに言ったら、キョトンとして言ってくれるんだけど。

「私は婚約者なんていないわよ」

私が言うと、


「そうだよな。アオイ、なら俺が……」

「あんたは少し黙っておきなさい」

ボビーが何か言い出したボビーを止めて、

「だって、あなた、殿下と婚約したんじゃないの?」

私にとんでもないことを聞いてくる。


「はい? 殿下って第一王子殿下の事?」

「それ以外に誰がいるのよ」

「それは無いわよ」

私は即座に否定した。


「だってとても仲良さそうだったじゃない」

「殿下は私をアリストンから連れてきてくれたから、責任感じて私の面倒を見てくれているのよ。でも平民出身の私が殿下の横になんて立てるわけがないじゃない」

私が更に否定すると、


「そんなんじゃないと思うけれど、ねえ、エイブ!」

ポーラは全然私の言うことを信じていない様相でエイブに振ってくれた。

「まあ、そう言う事になっているんじゃないか」

なんかエイブが頓珍漢なことを言ってくれるんだけど。


「ああ、殿下からそう言えって言われているのね」

ポーラまで頷いてくれるんだけど、絶対にそれはない。

私の言うことを二人は聞いてくれなかったけれど。



学園の中では令嬢たちに謝られて以降は絡まれることもなくなった。令嬢方に絡まれた件で、結果的に私が皇帝陛下のお客様だと周りに大々的に知らしめてくれたのだ。


それ以外にも謁見の儀がある旨が、高位貴族から漏れてしまったらしい。

私が陛下に謁見する旨が誠しなやかに皆に伝わっているみたいだ。そんな私に絡んでこようという勇気のあるやつはこの学園にはいないみたいだ。


あれからは謝りに来なかったアマンダも皇女殿下も静かだ。私が第2王子殿下の対抗馬にも上がらないとムカつく事を言って去っていったチェルシーは元々静かだし。

学園の中はそう言う面では本当に静かだった。

宮殿に帰ったら、毎日マイヤー先生の補習で大変だったけど。


魔術実技の時間はゴードン先生が癒やし魔術について色々教えはじめてくれて、私にはとても有意義なものになっていた。

でも、他の同じクラスの面々にとっては、どうなんだろう?

アレンとかは癒やし魔術を知る機会がないので、大変参考になると言ってくれるんだけれど……



謁見の儀式なんて、面倒なことはやりたくない。


私の思いとは裏腹に、刻々と儀式の日が近くなってきた。


夜の食事も先生の講義付きなので、私はなかなか食べられずに、少し痩せた気がする。

衣装の微調整をみんなでしていた時だ。

クリフが扉をノックしてくれた。


「クリフ!」

私は嬉しくなった。久々のクリフだ。

そう言えば最近クリフには会えていなかったのを私は忘れていた。

侍女たちが慌てて席を外してくれた。


「元気にしていたかアオイ」

「ええ、なんとか。マイヤー先生の補講が大変だけど」

「そうだな。そこは諦めろ」

白状にもクリフは助けてくれる気はないらしい。


「クリフも元気だった」

「いや、俺も疲れた。やることが山のようにあって」

クリフは首を振った。


「大丈夫? 私で助けになることがあるなら何でもやるわよ。もっとも何もないような気がするけれど」

私は笑って言った。


「じゃあ、アオイ、少しだけ良いか?」

そう言うとぎゅっとクリフが抱きついてきたんだけど……


「えっ」

私はいきなりクリフに抱きつかれてびっくりした。


「たまには逆もいいだろう。いつもはアオイに抱きつかれているから」

そういうふうにクリフに言われると、何回かクリフの布団に潜り込んで寝ている私としては何も言えない。抱き枕か何かのつもりなんだろうか?


「クリフ、ちょっと重い」

私が辛くなってきて言うと、


「悪い悪い」

そう言ってクリフが離れてくれた。


そうしたら、見上げた眼の前にクリフの整った顔があって私は少しドギマギした。


旅の間はずっと一緒だったけれど、馬の上ではクリフは私の後ろから支えてくれたし、なかなか顔をあわせるというかクリフのイケメンの顔を間近で見る機会なんて無かったのだ。

私はまじまじとクリフの顔を見てしまった。


「アオイ、おまじないしてもいいか」

「えっ」

私が何をするんだろうと思った時にはクリフの唇が私の唇と重なっていた。


ええええ!


私は目を大きく見開いて固まってしまった。

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