第87話 令嬢からのお詫びでうんざりしていたら礼儀作法の先生からもお詫びされてまいりました……でも、その後の授業は情け容赦がありませんでした

翌日だ。

朝学園に行って教室に入った私達は教室の前の廊下で九人の令嬢たちが待っていたのだ。


すわお礼参りかと私達は身構えた。


「ポーラ様。此度の件大変申し訳ありませんでし。」

「えっ」

唖然とする私達の前で、一人がポーラに詫びると頭を下げたのだ。


「「「本当に申し訳ありませんでした」」」

その後ポーラは九人の令嬢たちに頭を90度下げられた究極のお詫びを受けていた。


私達は、特にポーラが固まっているんだけど。


彼女たちは全く姿勢を動かさない。これが、マイヤー先生が言っていた究極のお詫びかと私は感心した。


「ちょっと、アオイ、感心していないで、なんとかしてよ」

「えっ? そんなこと言ったって、私は平民だから、お貴族様の事は私は良く判らないし」

私がそう言って逃げようとしたら、


「良く言うわね。どのみち、あなたが皇太后様に何か言ってくれたんでしょう」

「そんな、私が何か言うなんて」

私がごまかそうとしたら


「殿下がおっしゃっていたわよ。あなたが皇太后様のお気に入りだって。食事も良く一緒にしているんでしょ」

「えっ、クリフそんなこと言ったの? 昨日、呼ばれて旅の話しただけよ。その後に陛下がヴァーノンの方々に気を使っているのに、心無い人達がポーラを蛮族って呼んでいたって文句言っただけで」


「やっぱり、アオイじゃない」

「だって、皇太后様はすぐにその当主を呼べって怒り出さたから、そんな大事にしなくてもいいから、何かの時にやんわり注意して頂けたら良いって私は断ったのよ」

私が言い訳したら、


「やっぱりあなたが言ったんじゃない。夜に宮廷から叱責の使者が来て、私その後で両親から死ぬほど怒られたんだから」

「レイナ!」

一人の令嬢が頭を上げて文句を言っていた令嬢を隣の令嬢が注意をする。

「「申し訳ありません」」

慌ててその令嬢も頭を下げ直す。


「おいおいどうするんだよ。これ」

エイブは面白がって言う。

「あんまり、反省はしていないみたいだけど」

「そのようなことは」

令嬢たちも必死だ。余程怒られたみたいだ。まあ、余計なことを言うからなんだけど。


「許すって鷹揚にうなずくところじゃないか」

ボビーは面白がって言うが、

「そんな事出来るわけはないでしょ」

ポーラがそう言うと、

「あの、もう良いので。ちょっと、ムッとしましたが、それだけです。そこまでしていただく必要はありません」

ポーラが認めた。


まあ、私としては見ていてあんまり気持ちの良いものではないからこんなものでいいけれど、本当には反省はしていないと思うのだけど。

そう、私は完全に他人事だった。


「ありがとうございます」

「「「ありがとうございます」」」

令嬢たちは皆ポーラに頭を下げていた。


やっと終わったと、私は教室の中に入ろうとしたのだ。


「アオイ様」

「えっ?」

しかし、私にも声をかけられてビクッとしたのだ。

今度は皇太后様に言いつけした件で私に文句を言うんだろうか?


「この度は色々ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「申し訳ありませんでした」

皆一斉にそう言うとまた90度頭を下げてくれたのだ。

まさか自分がそうされると思っていなかったので、私はびっくりした。

それにめちゃくちゃいたたまれないんだけど。

なんか自分が悪い事をしたみたいな気分になるのは何でだろう?


「えっ、いえ、もう良いですから。平民の私なんかに頭を下げないで下さい」

「そのような訳には参りません。アオイ様は皇帝陛下のお客様であり、そのような方に私達が取った態度は、本当に申し訳ありませんでした」

「「「申し訳ありませんでした」」」

皆一斉にまた頭を下げてそのまま固まってくれるんだけど。


「ちょっと、ポーラ、なんとかしてよ」

「さあ、私は皇帝陛下のお客様なんかなったことがないから判らないわ」

ポーラにも私が言ったそのままを返されてしまった。

皆さんにお帰りいただくのがまた大変だった。ポーラとかは笑ってみてくれるだけだし……本当に朝から疲れてしまった。


でも、授業が終わって宮殿に帰ったら、そこからがまた大変だったのだ。



「誠に申し訳ございませんでした!」

そう言うとマイヤー先生が地面に這いつくばって土下座しているんだけど……これどういう事?


帰ったら私はすぐに皇后様に呼ばれたのだ。


部屋に行くとすぐに会わせたい人がいると言われて、入ってきたマイヤー先生がいきなり土下座をしてきたんだけど。


私は度肝を抜かれた。まさか、あのマイヤー先生が私に土下座してくる時が来るなんて思ってもいなかった。やはり私への指導が厳しすぎると反省したのか……


いやいやいやいや、土下座なんて礼儀作法の中に無いのでは? 確かこの世界ではないはずだ。前の世界でも日本しか無かったのでは……


私は超混乱していたのだ。


「まあ、アオイ、マイヤーが必死に頼んできたから会わせたんだけど、いい加減に許してあげたらどうかなと思って」

皇后様が言われるんだけど。


「あのう、許すも何も、そもそもマイヤー先生は私を大聖堂に連れて行かれだけですし、私と一緒に眠らされて、その後監禁されていたと聞いています。別に罪はないのでは」

私が言うと、


「何をおっしゃいます。私は皇帝陛下のお客様であるアオイ様を危険にさらしたのです。本来ならばそれだけで万死に値します。それのみならず、大司教から出来たらアリストンからの使者に会うだけでも会わしてやってほしいと言われていたので、軽い気持ちでアオイ様を連れて行ってしまったのです。まさか、アリストンの使者があのようにいきなり誘拐を図るとは考えてもおらず、その上大司教も同罪であったとは知りもせず、本当に申し訳御座いませんでした」

再度マイヤー先生は額を地面に擦り付けられるんだけど、ちょっと待ってほしい。

そんな事マイヤー先生にされたら碌な事は無いはずだ。


「いえ、先生、私は気にしておりませんから、席にお戻り下さい」

私は先生の手を取り上げたのだ。


「しかし、アオイ様。私めの不徳のいたす所でアオイ様を危険な目に合わせたのは事実でございます。そう簡単に許していただくわけには」

「マイヤー先生は私の大切な先生なのです。悪いと思うならば、今まで以上に職務に精を出して頂ければ問題ありません」

私はそう言っていたのだ。


「判りました。本当にありがとうございます。この上は死にもの狂いで職務に精を出させていただきます」

マイヤー先生はそう言うとやっと立ち上がってくれた。

私はホッとした。


でも、その目がやる気にランランと光り輝いているんだけど、これは少し不味くないかしら……

そう思ったのは後の祭りだった。



そう、2時間後には


「アオイさん。背筋を伸ばして、指もまっすぐに。そんな姿勢では謁見は行えません。もっと堂々と」

今まで以上の鬼教官がそこにいたのだった。


その日は食事時間までみっしりと礼儀作法の特訓をされたのだ。


許したことをこれほど後悔したことはなかった……

**************************************************

最悪のアオイでした。

情けは人の為ならず、己が為……

「どこがよーーーー」

というアオイの叫び声が響きそうな気が……

続きは明日

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