第83話 いきなり陛下に拝謁させられて、謁見の儀が決まりました

私達は3日かけて帝都に帰ってきた。

帰りも馬の旅はけっこう大変だった。

まあ、馬の旅には少しは慣れたけれど、まだ、1日一回の回復魔法は必須だった。

これも全て、私の体力不足が原因だ。まあ、これもトレーニングと思って頑張って耐えたんだけど……


「辛い割には良く寝ていたな」

そうクリフに言われるくらいには馬の上で寝れるようにもなっていて……

まあ、クリフが完全に私を支えてくれているから出来る事なんだけど……

馬を走らせ続けてくれているクリフには悪いと思いつつ、眠いのは仕方がない。

まあ、寝れるだけ慣れたって事だと思うんだけど……

ポーラには呆れられていた。


「あんた、よだれ垂らして寝ていたわよ」

「えっ、本当に?」

そう小声で言われて、私も慌てた。


「よく、殿下の前でそんなことできるわね」

ポーラに白い目で見られたけれど……クリフの前ではいろんな馬鹿な事もしているので今更だけど、さすがによだれはまずいだろう……


「恋人に抱かれてそんなことするなんてアオイくらいよ」

ポーラが何か言ってくれたが、声が小さくてよく聞き取れなかった。


「何か言った?」

「なんでもない」

ポーラは言ってくれたけれど、絶対に何か悪口だ。

はっきりと言ってくれたらいいのに!



帝都の広場で私達は皆と別れた。


「殿下、色々ありがとうございました」

「いや、こちらこそ、族長のところに連れて行ってもらえて本当に助かったよ」

ポーラの言葉にクリフがお礼を言っていた。


「じゃあ、ポーラ、また学校で」

「アオイ、また明日」

「またな」

私達はポーラとかと別れていざ、王宮へ向かったのだ。





「アオイ様! よくぞご無事で」

王宮に着くなりエイミーに抱きつかれて、熱烈歓迎された。


「途中で襲われたと聞いた時は本当に肝が冷えました」

エイミーが半分泣きそうな顔で言ってくれるんだけど。


「クリフがちゃんと守ってくれたから全く大丈夫だったよ」

「それでもそんな危険な所に行かれるなんて」

「いや、今回はまだマシだったから」

そう、ミルコープ辺境伯の所で地下牢に入れられたことに比べたら全然問題なかったから。

私がエイミーを宥めていると


「アオイ、父が会いたいそうだ」

「えっ、陛下が?」

執事さんと話し終えてこちらを向いたクリフの言葉に、私は固まってしまった。


今まで王妃様にお会いしたことはあるが、皇帝陛下は初めてだった。

今頃何の話があるんだろう?


私はとても不安になった。


「何の用かは判らないけれど、すぐに準備を頼む」

「承知いたしました」

クリフの言葉にエイミーは答えると、私は直ちに部屋につれて行かれて、取り急ぎ乗馬服をドレスに着替えさせられたのだ。


そして、そのまま、陛下の執務室に連れて行かれた。



執務室の中には既にクリフが入っていて陛下と話をしていた。


「クリフ、また、断りもなしに、なんて事をしてくれたのだ!」

「仕方がないでしょう。アオイがヒールをかけたらそうなる事は元々想定された事です」

「しかし、何も皆の前で宣誓することもなかったであろうが」

何か私の事でもめているようだ。


「おお、アオイ殿か。よく来られた」

私に気付いた陛下が敬語で話してくれたんだけど。


「チハヤ・アオイと申します。お初にお目にかかります。陛下におかれましてはご機嫌よろしゅう……」

「ああ、堅苦しい挨拶は省いて良い」

私のたどたどしい挨拶に陛下が手を振ってくれた。

私はほっとした。


陛下もよく見るとクリフに顔立ちが似ていた。どちらも整った顔立ちだ。

クリフの隣に座るように指示される。


「此度のヴァーノン族の訪問はご苦労だった。カルヴィンの足を治してもらい、こちらの方にとどめて頂いた事、感謝の言葉もない」

陛下が頭を下げられた。


「いえ、とんでもないです。私はクリフの横にいてその指示に従っていただけですから」

私は慌てて答えた。礼儀作法も何も吹っ飛んでいた。


「現地で、私、何かまずいことをしでかしてしまいました?」

気になったことを聞いてみたが、


「いや、アオイ殿はよくやってくれたと思う。そもそも、学園ではカルヴィンの孫娘と仲良くなってくれて、今回の訪問を実現できたこと、全てはあなたの功績だ。本当に感謝の言葉もない」

再度陛下が頭を下げてくれたんだけど


「いえいえ、元々、私は破落戸に襲われた所をクリフに助けられた身なんです。その時にこの奴隷の首をつけられて、クリフの奴隷だって言われたんですけれど」

「いや、アオイ、それは護りの首輪で」

「えっ、だって、最初はそんなこと言わずに奴隷の首輪だからこれでお前は俺の奴隷だ。だから俺のいう事を聞けって」

「そんな事は言っていないだろう」

「えっ、変わらないことを言われた気がするけれど」

クリフが否定してくれるけれど、最初は同じような事を言われた気がするんだけど。


「オホン、オホン」

陛下の横から咳払いがした。


私達は慌てて喧嘩をやめる。そうだ。陛下の前だった。

「宰相のエドウィン・ダーリントンだ」

陛下が教えてくれた。


「お二人の仲が良いのは良く判りましたが、ここは陛下の御前ですからの」

やんわりと宰相に注意されて私は赤くなった。


「問題はないのだが、アオイ殿が聖女であるとヴァーノンで広まってしまっての」

「否定したのですが、皆、聞いてくれなくて」

私が苦笑して言うと


「いやいや、あなたは元々サフォーク村で疫病から皆のものを救ってくれたのだ。あれはどう見ても聖女の術だ。

その点での御礼を言えずに申し訳なかった」

陛下がまた頭を下げられるんだけど。


「いえいえ、当然のことをしただけですから」

私は慌てて手を振った。皇帝陛下に頭を何度も下げられるほどのものではない。


「アリストン王国の聖女様の絡みもあって、今までは公に出来なかった。本当に申し訳ない」

「いや、陛下、私のようなものに何度も頭を下げていただかなくても」

また頭を下げられた陛下に私は必死に手を振ったんだけど。


「そう言っていただくと助かる。

ただ、そのアリストンの行いが目に余るものがあっての。この帝国内で帝国が客人として滞在いただいているアオイ殿に対して誘拐を図るなど言語道断。また、それを許した我が帝国の警備体制にも大いに問題があった。全ては私の不徳のいたすところだ。申し訳なかった」

深々と陛下が頭を下げてくれたんだけど。


「いえ、あの陛下。その時はクリフに助けてもらいましたから」

それは怖かったけれど、もう終わったことだから。

私は何回も陛下にあたまを下げられて本当に参ったのだ。


「我が帝国としてもこれまではアリストンに義理立てして、あなたのことは公にしなかったが、もうその必要もないと判断した。此度のアリストンの行為はこの帝国に対する敵対行為だ。我が方としてももう義理立てする必要はない」

陛下はそう言うと私を見られた。


「アオイ殿、大変申し訳無いが、あなたを聖女として帝国の皆にお披露目する場を設けさせて頂けないだろうか?」

「いや、あの、陛下。私は聖女ではないとアリストンの王宮から追放された身なんですが」

私は否定したが、

「失礼ながらアオイ様。アオイ様の行いの数々、調べさせていただきましたが、過去の文献の聖女様と比べても比類ないかと。いや、そのお力は下手すると我が帝国の初代の聖女様と同じほどのお力を有していらっしゃるかと」

エドウィン様まで言ってくれるんだけど。


いやでもそんな……


私は慌ててクリフを見たんだけど。


「まあ、アオイ、いずれはこうなるのは判っていたんだから、ここは諦めろ」

えっ、そうなの?


私の謁見が決まった瞬間だった。

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