第82話 大王視点2 ヴァーノン族の裏切り失敗に歯ぎしりして悔しがりました

俺は大陸の勢力図をモンターギュ帝国優位から、我がキンロス帝国優位になるように着々と手を打っていた。


それにはまず女神教の聖女を完全にこちらに取り込み、その王配を我が帝国から出す事。


次いで、帝国内部を帝位争いで分裂させること。


最後に、獰猛な蛮族ヴァーノン族を我が帝国に裏切らせることだ。


これだけやればモンターギュ帝国の勢力は弱体化する。


モンターギュ帝国を内乱状態に持ち込んで我が孫息子が勝てば良し。

負けたら、その敗残勢力をも糾合し、一気にモンターギュ帝国を併合してやろうと、虎視眈々と狙っていたのだ。



1つ目のアリストン王国の聖女の暗殺は思いのほかうまく行き、その後の我が意向に反する聖女の抹殺も成功した。


次の召喚した聖女を我が孫アラムが婚約者になって、取り込むことには成功したとの報告は受けた。


そのあおりを食って、婚約者が死んで帝国第一王子が意気消沈しているとの報告も受けていた。


モンターギュ帝国は下手しなくても我が孫が皇帝になる方向で進むのではないかと危惧したくらいだ。


まあ、そうなれば俺はモンターギュ帝国とこのキンロス帝国の2大帝国の支配者となり、残りの小国は脅せば降伏して来るのは確実。大陸を統一できる日も近くなろう。


3っつめの元々が我が支配下にあったヴァーノンが、モンターギュに反旗を翻さないとは思ってもいなかったのだ。何しろ帝国は我が精鋭のヴァーノンを取り込んだにも関わらず、前皇帝が、ヴァーノンのカルヴィンとの戦いの傷が元で死んだので、ヴァーノンをきちんと扱っていなかったのだ。


本当に帝国は馬鹿だ。


ヴァーノン族さえ取り戻せれば、その周りの蛮族共も堰を切ったように我がキンロス帝国に味方するのは火を見るのも明らかであった。


そのためにヴァーノン族に与える子爵位や男爵位など全く問題はなかった。


ヴァーノンの族長一族につらなるサイラスなる者が、必ずヴァーノンをこちら側にしてみせると言ってきたので、次代はサイラスを指名してやると言いはしたが、族長の孫のダニーが優秀ならばそちらに継がせてもよいのだ。

辺境の蛮族など誰が継ごうが我が帝国の盾と矛になってくれればそれで良い。


サイラスの計画は、帝国の手の者にカルヴィンの孫娘を襲わせたことにして、怒り狂ったカルヴィンが帝国に反旗を翻させるとの事だった。


「まあ、カルヴィンの孫娘を可愛がる様は他の者も呆れるほどだそうなので、これで確実に寝返るでしょう」

宰相のマクシムも太鼓判を押してくれたのだ。


俺は安心しきっていた。



それが失敗したと聞いたのはその1週間後だった。

「どういうことだ。マクシム! その方等も必ず成功すると申していたではないか」

俺は思わず持っていたグラスを地面に叩き割っていた。


「申し訳ありません。陛下。なんでも、帝国の第一皇子自身が娘を送ってカルヴィンの元にやってきたようで、帝国を装って襲った山賊共も、その皇子に退治されたようです」

「貴様らがいろいろ策を講じ過ぎたのではないか。素直にカルヴィンに余に寝返れと言えばよかったのではないか」

「申し訳ありません。陛下。ただ、サイラスとしてはそれでは今ひとつ確実性に欠けると、今回は確実に寝返る方法で……」

「バカモン! うまくいかなかったではないか」

俺は宰相の報告を途中でぶった切って、叱責していた。


「申し訳ありません!」

周りの者たちが頭を下げる。


「愚か者めが。貴様らが頭を下げてもどうしようもないわ。カルヴィンはこちらに寝返るのか」

「サイラスが申すには、カルヴィンは帝国の待遇に不満があるので、必ずこちらに寝返らせるので、あと少しお待ち下さいとのことですが」

宰相が言うが、


「うーん、当てにならんではないか。何なら、余自らヴァーノンの地に参るぞ」

「そのような、陛下自ら、あのような僻地まで足を運んでいただかなくとも」

「しかし、帝国は皇子が行ったのであろう。ヴァーノンの戦力は大きいぞ。余自ら行く価値は十分にある」

俺はそう言うと直ちにヴァーノンの地に向かうようにスケジュールの調整を命じたのだ。


俺がサイラスの死を聞いたのは軍を率いて、まさに出ようとした時だった。


「何だと、サイラスがカルヴィンに殺されたというのか」

「はいっ。サイラスは帝国の皇子諸共孫娘を始末しようとして失敗、族長カルヴィンに処断されたそうです」

俺は唖然として伝令の報告を聞いていた。


「おのれ、帝国め。やってくれたな」

俺は作戦の失敗を悟ったのだ。


「くっそう!」

その報告書を俺は地面に叩きつけていた。


そして、改めて、絶対に帝国に目にもの見せてくれようと決意したのだった。

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